第2の「ビッグバン」で、サピエンスはバージョンアップする。以下は、『サピエンス全史』( ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)からの要約。

TED TIMES 2020-9 「Sapiens-4」2/24 編集長 大沢達男

 

第2の「ビッグバン」で、サピエンスはバージョンアップする。以下は、『サピエンス全史』( ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)からの要約。

 

16、拡大するパイという資本主義のマジック

西暦1500年の世界全体の財とサービスの総生産量は2500億ドル相当、今では60兆億ドル。一人当たりの年間生産量は550ドルから8800ドルになっている。「信用」のおかげで私たちは将来のお金で現在を築くことができるようになった。稼ぐことは罪悪だったが、科学革命が起こり進歩という考え方が登場する。

アダム・スミスは、自分の利益を増やしたいと願う人間の利己的な衝動が全体の豊かさの基本になる、と主張した。利己主義はすなわち利他主義になった。コロンブスはイサベル女王に投資させた。やがてスペイン王は信用を食い潰し、オランダ人にリーダーを譲る。成功の秘密は信用だった。オランダ東インド会社(VOC)はインドネシアの大部分を植民地にした。200年近く支配し、政府に引継ぎ150年間、国の植民地にした。オランダの後はフランスとイギリス。フランスは歴史上屈指の金融破綻「ミシシッピ・バブル」で崩壊しフランス革命になる。その後イギリスの東インド会社は、最大35万の巨大な兵力で、1世紀にわたりインドという巨大な帝国を支配する。

自由主義至上主義は、市場に自由にさせ政府に何もするな、と説く。国内での福祉制度を、国外での軍事作戦を批判し、「何もするな」。16~19世紀まで、1000万人のアフリカ人が奴隷としてアメリカに連れてこられ、プランテーションで砂糖、ココア、コーヒー、タバコ、綿花、ラム酒を作り、それがヨーロッパで売られた。奴隷貿易企業はアムステルダム、ロンドン、パリの証券取引所に上場していた。ヨーロッパの中産階級は株を買った。自由市場資本主義の重大な欠点だ。

17、産業の推進力

産業革命は第2次の農業革命だった。工場生産方式は農業の大黒柱になる。動植物も機械化された。卵を産むメンドリは「鶏卵製造機械」、乳牛は「牛乳製造機械」。動物たちの主観的欲求は無視され、何百億もの家畜が機械化された製造ラインの一部として暮らしており、毎年500億が殺されている。

18、国家と市場経済がもたらし世界平和

産業革命により時間表と製造ラインが人間活動の定型になる。産業革命は家族と地域コミュニテイを崩壊させ、それに代わり国家と市場を台頭させる。国家と市場は「個人」を提唱する。親の許可でなく好きな人と結婚する、長老が眉をひそめようと自分に向いた仕事をする、毎週家族との夕食の席に着けなくても、好きなところに住む。個人の解放には犠牲が伴う。親の権威は見る影もない。親密なコミュニティは想像上のコミュニティに変わる。いまは平和の時代である。2000年に戦争で31万人、暴力犯罪で52万人、自動車事故で126万人、81万5000人が自殺した。1945年以降、国連から承認を受けた独立国家が征服され地図上から消えたことは一度もない。

19、文明は人間を幸福にしたか

私たちは以前より幸せになっただろうか。まず中国のアヘン中毒者、タスマニアのアポリジニの視点を忘れてはならない。次に、私たちは地球の生態学的均衡を乱し続けている。そして豊かさの大部分は実験台のサル、乳牛、ベルトコンベアーに載せられたヒヨコの犠牲の上に築かれている。人間を幸せにするのは、体内に生ずる快感である。人間の生化学的反応は空調システムと同じ、陽気な生化学システムを持った人は人を疎外する大都会でも、株式の暴落でも、糖尿病の診断を受けても、幸せ。一方陰鬱な生化学システムを持って生まれた人は、コミュニティの支援を受けても、宝くじが当たっても、健康でも、気分は沈んだままである。科学的な視点から言えば、人生にはまったく、何の意味もない。ブッダは外部の成果の追求のみならず、内なる感情の追求もやめよ、と説いた。渇愛は苦しみを増す。

20、超ホモ・サピエンスの時代へ

21世紀、ホモ・サピエンスは自然選択の法則を打ち破り、知的設計の法則をその後釜に据えようとしている。生物工学、サイボーグ工学、非有機体生命工学、脳とコンミュータを直接結ぶ双方向型インターフェースの発明。「インター・ブレイン・ネット」。作り手から完全に独立し自由に学習し進化するプログラム。コンピューターの中に完全な人間の脳の再現。未来のテクノロジーの可能性はホモ・サピエンスそのものを変える。ビッグバンは特異点だ。既知の自然法則が存在していなかった時点だ。私たちは新たな特異点に近づいている。「人類」という言葉そのもの自体が問われている。