進化論的、社会主義的、そして自由主義的人間至上主義が、最後に勝ち残った。以下は、『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。

TED TIMES 2020-13「ホモ・デウスー3」 3/20 編集長 大沢達男

 

進化論的、社会主義的、そして自由主義的人間至上主義が、最後に勝ち残った。以下は、『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。

 

5、科学と宗教というおかしな夫婦

科学は神話を事実で置き換えたわけではない。神話は人類を支配し続け、科学は神話の力を強めている。科学の台頭は一部の神話と宗教をかつてないほど強力にする。宗教と科学の隔たりは小さいが、宗教と霊性の隔たりは大きい。霊的な旅は、私は何者か、人生の意味とは何か、善とは何か、人々を神秘の道に連れ出し、未知の行き先に向かわせる。学業は霊的な旅ではなく、取り決めにすぎない。俗世界の慣習や取引を疑って未知の目的地に敢然と向かう旅は、「霊的な」旅である。

宗教にとって霊性は権威を脅かす危険な存在。カトリック教会の権威に対する反抗を煽ったのは敬虔で禁欲的な修道士のマルティン・ルターだった。

科学が実用的な制度を創出するにはいつも宗教の助けが必要である。揚子江三峡ダムで、600平方キロの土地の水没と、膨大な電力とお金と、どちらが価値があるか。科学理論だけでは決められない。科学は宗教が下す倫理的な判断に反証することも確証することもできない。科学と宗教は真理より秩序と力を重視する。科学と宗教は相性がいい。真理の断固とした探求は霊的な旅で、宗教や科学の主流の中に収まらない。

6、現代の契約

人間は力と引き換えに意味を放棄することに同意した。これが現代の契約である。

宇宙は盲目で目的のないプロセスであり、響きと怒りに満ちているが、何一つ意味はない。テクノロジーは進歩し、永遠の若さを与えてくれる秘薬、真の幸福をもたらす秘薬、望みどおりの秘薬を創り出せる。そして、どんな神もそれを止めることはできない。現代文化は史上最強で、絶え間なく研究や発明、発見、成長を続けている。同時に、これまでどの文化が直面したことのないほどの大きな実存的不安に苛まれている。現代における力の追求は、科学の進歩と経済の成長の間の提携力を原動力にしている。ヒンドゥー教徒イスラム教徒、日本の国家主義者、中国の共産主義者・・・全く異なる価値観、目標を持っている人々の間でも、「成長」は世界中で宗教の地位を獲得している。世界は決まった大きさのパイであるとう伝統的な見方は、世界には原材料とエネルギーという二種類の資源しかないことを前提にしている。実は知識という第三の資源がある。知識は増え続ける資源で、使えば使うほど多くなる。知識が進歩へ向かう科学の道を開いた。資源の欠乏を克服する可能性がある。未来の科学者はまだ知られていない地球の救出法を探すかもしれない。力と引き換えに意味を捨てた。倫理感も美学も思いやりもない暗い世界。ところが人類は平和で協力的。現代社会を崩壊から救ったのは人間至上主義である。

7、人間至上主義革命

人間至上主義は、人間の内なる経験から、自分の人生の意味と森羅万象の意味を引き出す。

完璧な自動車を作っても売れない。自由市場では顧客が常に正しい。人間至上主義教育では、自分が考えること、を教える。神を信ずるのは、私の選択。自分自身の内なる声に従っている。科学の公式は、天文学、物理学、医学に答えられたが、価値、意味の疑問に対応できない。

人間至上主義は3つの宗派に分かれる。1)自由主義2)社会主義的3)進化論的。自由主義では有権者、顧客が正しく。社会主義では党、職種別組合が正しい。進化論では争いを称賛する。優秀な人間と劣悪な人間、ヨーロッパ人とアフリカ人、優れた実業家と愚か者、人類はしだいに強くなり、適性を増す。

進化論的な人間至上主義は21世紀で大きな役割を果たす可能性がある。1914年から89年まで、3つの宗派間で宗教戦争があった。ドイツ軍が打ち負かされのはソ連自由主義陣営を組んだからだ。戦時中、イギリスは50万、アメリカも50万、ソ連は2500万人の犠牲者を出した。ナチス打倒をしたのは共産主義者だ。

核兵器がなければ、ビートルズウッドストックもなかった。大反撃はギリシャ、スペイン、ポルトガル独裁政権崩壊に始まる。1977年インディラ・ガンジーのインドの民主主義国家、1980年代にはブラジル、アルゼンチン、中華民国、韓国での軍事独裁政権の崩壊。80~90年代には民主主義は津波になり、ソ連は崩壊する。2016年、個人主義、人権、民主主義、自由市場の自由主義のパッケージに代替できるものはない。シリコン・ヴァレーから生まれる新しいテクノ宗教が確立するためには10~20年かかる。宗教とテクノロジーは微妙なタンゴを踊っている。テクノロジーは宗教に頼っている。21世紀初頭の今、進歩の列車は再び駅を出ようとしている。ホモ・サピエンスと呼ばれる駅を離れる最後の列車になる。