映画『ランブル』は、インディアンがロックに与えた影響を、テーマにしています。

TED TIMES 2020-55「ランブル」 10/5 編集長大沢達男

 

映画『ランブル』は、インディアンがロックに与えた影響を、テーマにしています。

 

1、衝撃の映像

映画『ランブル(音楽界を揺るがしたインディアンたち)』(キャサリン・べインプリッジ監督 2017年 カナダ)は、インディアンがロック・ミュージックに与えた影響について描いた、発見の映画です。

「インディアン」とはコロンブスの誤解、かといって「ネイティブ・アメリカン」も白人の差別目線がある。先住民は、「インディアン」もしくは部族名で、自らを呼んでいます。

衝撃のシーンがあります。○米国軍によりたくさんのインディアンが殺され穴に埋められます。○KKK(白人至上主義団体)によりインディアンの住居が発見され殺されます。○デモ隊と警官が衝突しデモ隊が警棒でボコボコに殴られます。”Black lives matter.”どころではありません。北米大陸では白人によって多様な哺乳類が8割近く絶滅されたように、インデイアンも白人によってほぼ絶滅にされました。

1776年のアメリカ合衆国独立宣言は、「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」、と高らかに宣言しました。嘘っぱちです。白人は白色人種が科学的に優れていると信じ、1960年代まで白人至上主義のイデオロギーにとらわれていました(『サピエンス全史』参照 ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社)。

2、「RUMBLE」

”Rumble”とは、ゴロゴロ鳴る、ガラガラ走る、ダラダラと続く、そしてケンカです。「ランブル」は、1958年のショーニー族ギタリスト、リンク・レイのヒット曲です。初めてディストーション(音の歪み)を使い、エレキギターの新世界を切り開きました。米国、英国でヒットし、英国ではキンクスジミー・ペイジ、そしてザ・フーピート・タウンゼントに影響を与えました。つまりロックの原型を作りました。ギターだけ、ボーカルのない曲なのに、あまりにもの破壊力で、放送禁止になったという、曰く付きのヒットです。

次にエレキ・ギターの革命児ジミー・ヘンドリックスがいます。チェロキー族です。1969年ウッド・ストック・ロック・フェスでの歴史的な演奏「星条旗よ永遠なれ」があります。スターズ・アンド・ストライプスを八裂きにし、あるいは緑や黄色のペンキを塗りたくるような、演奏です。逮捕されるかもしれない、と語ったジミーの回想が印象的です。

そしてロビン・ロバートソンがいます。モーホーク族。ボブ・ディランのバックを務め、68年のザ・バンドでブレイクし、76年の解散コンサート「ラスト・ワルツ」があります。現在ではモーホーク族のアイデンテティを前面に押し出した活動をしています。

映画はインディアンの音楽の伝統とインディアンの抵抗の音楽が、ロックのルーツに影響を与えたことを証明します。

3、エルヴィス・プレスリー

ロックンロールの源流には、教会音楽、米国音楽(カントリー&ウエスタン)、黒人音楽(リズム&ブルース)があり、エルヴィス・プレスリーはそれを総合したと言われてきました。映画『ランブル』によってこの歴史は書き換えられるのでしょうか。

エルヴィスが”That’s all right mama.”をレコーディングし注目されるようになったのは、1954年です。そして1956年に”Heartbreak Hotel.”をヒットさせています。

”Ramble”は、1958年。エルヴィスの方がちょっと早い。もちろんエルヴィス・プレスリーの先祖にもチェロキー族の血がある、という説もあります。そしてエルヴィスのマンブリン唱法(しゃっくりをするように声をひっくり返す)がインディアン唱法の影響であると見なすこともできます。・・・でもこれらの説明は多少の無理です。

ワールドミュージック世界の音楽)からロックは生まれ、ロックはワールドミュージック(世界の様々な音楽)に帰って行きました。

インディアンは迫害され差別され殺された。その抵抗の叫びがロックにはある。『ランブリン』はそれをテーマにしていますが、ロックをあまり政治にしないほうがいい。

人種差別の問題は無くならない。ロックの問題どころか、政治の問題すら超えています。白人はあまりにも残酷すぎました。犯した罪を許しても、忘れていいものではありません。なぜなら、それは黄色人種である私たちの現代の問題でもあるからです。