自由は空虚、個人は時代遅れ。大衆が消え、超人が現れる。以下は、『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。

TED TIMES 2020-14「ホモ・デウスー4」 3/27 編集長 大沢達男

 

自由は空虚、個人は時代遅れ。大衆が消え、超人が現れる。以下は、『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。

 

8、研究室の時限爆弾

自由意志と現代科学の矛盾は増えてきている。「自由」という神聖な単語は、「魂」と同じく、具体的な意味などまったく含まない空虚な言葉だった。

脳スキャナーを使って、人が自分の欲望や決定を自覚する前に、その欲望や決定を予測することができる。にもかかわらず、自由意志を論じ続けるのは、科学者までもが時代遅れの神学的概念を使っていることがあまりにも多いからだ。もし私が本当に自分の考えや決定の主人公なら、これから一分間、何も考えないことにできるだろうか。試してみて確認するがいい。

自分には単一の自己がある、は自由主義の神話にすぎず、科学研究で偽りであることが暴かれた。人間は分割不能な個人ではない。「経験する自己」と「物語る自己」、少なくとも二つの自己がある。物語る自己は左脳の解釈者と似ている。印象深い瞬間や最終結果だけを使って物語を紡ぐ。物語る自己は「ピーク・エンドの法則」を採用する。小児科医や獣医はこのトリックを使う。痛い、不快な検査の後に、子供(あるいは犬)にお菓子を与える。楽しい10秒間で、その前の何分にもわたる不安を痛みが帳消しになる。空想の物語に犠牲を払えば払うほど執拗にその物語にしがみつく。

聖職者たちはこの原理を何千年も前に発見した。物語る自己は、過去の苦しみはまったく意味がなかったと認めなくて済むように、将来も苦しみ続けることを好む。国家、神、貨幣と同様、自己もまた想像上の物語である。自由な個人は、生化学的アルゴリズムの集合によってでっち上げられた虚構の物語に過ぎない。自由主義は、「自由な個人などいない」という哲学的な考えによってではなく、具体的なテクノロジーによって脅かされている。

9、知能と意識の大いなる分離

比類のない個人は時代遅れになる。1)人間は経済的、軍事的有用性を失う。2)個人として人間の価値はなくなる。3)一部の人間が、アップグレードされた超人というエリート層になる。

第一次大戦後、なぜ女性に参政権が与えられたか。産業化戦争の総力戦では女性が不可欠な役割を果たすからだ。

コンピューターの知能は途方もなく進歩したが、意識な関しては一歩も前進していない。知識と意識ではどちらが本当に重要なのか。

21世紀の経済にとって重要な疑問は、膨大な数の余剰人員をどうするか。「無用者階級」は失業ではない、雇用不能である。エリートはバーチャル世界デザイナーのような職業につく。無用者は努力をしなくても、食べ物、支援を受けられる、やることがない。薬物とコンピューターゲームが一つの答えだ。

21世紀のテクノロジーのおかげで、外部のアルゴリズムが人間の内部に侵入し、私より私自身にはるかによく知るようになる。ピクシー・サイエンティフィック社は赤ちゃんの健康状態を判断する「スマートおむつ」、マイクロソフトの「マイクロソフトバンド」は心拍、眠りの質、歩数、あと何年生きられるかを判定する。「グーグル・インフルエンザ」は、インフルエンザの流行を追跡する。グーグル「ベースライン・スタディ」は、完璧な健康のプロフィールを確定する。セルゲイ・プリンの前妻アン・ウォジッキの私企業の「23and Me」は、唾液のDNAを解析で、健康上の危険、脱毛症、失明、疾患に対する遺伝性素因が列挙する。「汝自身を知れ」は、手軽で安上がりに、可能になる。

人間は、物語る自己が、創作する物語に導かれる、自律的な存在ではなくなる。民主的な選挙のような自由主義の慣習は時代遅れになる。ピークエンドの法則に従う、物語る自己の政治選択は信用できない。

フェイスブックの方が本人よりいい。ナビゲーション・アプリ「Waze(ウェイズ)」がある。ウェイズはあなたを導き、やがて君主になる。マイクロソフトの「Cortana(コルタナ)」がある。妻の誕生日では、プレゼント、レストランを決める。処方されている薬を飲むように促す。ビジネスミーティングでは、血圧が高くドーパミン値が低いから、契約は避けろとアドバイスする。コルタナは巫女から代理人なる。21世紀のテクノロジーは、人間から権威を剥ぎ取り、アルゴリズムに権限を与える。個人は宗教的な幻想以外の何者でもない。第3の脅威は、アップグレードされた特権エリート階級の登場である。上流階級と残りの人々の間に、身体的能力と認知能力で、本物の格差が生ずる。大衆の時代は終わりを告げる。並外れた身体能力や情緒的能力の超人が現れる。