TED TIMES 2020-16「ホモ・デウスーまとめ」 4/10 編集長 大沢達男
「忘己利他」という快楽のために生きる。『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)のまとめ。
1、人間の終わり
「自殺こそ哲学の最大のテーマである」と、書き始めた20世紀の文学者・哲学者アルベール・カミユは、「人生は無意味」、「人生、生きるに値しない」、と結論づけました。
21世紀の歴史学者・哲学者ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』も同じです。宇宙には何一つ意味はない、人間が生きているのにも意味はない、と実存的不安を論じます。
でもこちら結論ではありません。議論の始まりです。
生物は40億年の有機物の歴史を終え、無機物の世界に突入します。テクノロジーで人間の心が作れるようになり、ホモ・サピエンス(知恵ある人)はホモ・デウス(神の人)にアップ・グレードされます。
人間(ホモ・サピエンス)の時代は終わり、第2のビック・バンが始まります。
2、個人の終わり
次にハラリは、一神教を否定します。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3大宗教です。
自由主義的人間至上主義を否定します。現代の常識はことごとく否定されます。
まず、「人権」は単なる神話に過ぎない。
地球上のたくさんの動物と植物を絶滅させてきた、人間だけがこの星で生きる権利がある、と主張することはできません。
神がいて、人間がいて、人間に奉仕する劣った人間がいて、人間のための動植物がある。これが一神教が作った物語です(安田喜憲『森を守る文明 森を支配する文明』を参照)。
次にハラリは「個人」を否定します。
「indivisual」とは分割できない人を意味します。個人は分割できない。でも、個人は有機体、分割できます。個人はアルゴリズム、分析できます。
人の不滅、不変の「魂」もここから生まれます。
ところが「魂」も「心」も科学的に説明できまん。物語でしかありません。
さらにハラリは、「自由」も「平等」も否定します。自由を科学的に証明できない。平等とは一神教の神話で、そもそも生物は差異を作るために成長してきている。
そしてハラリはSF小説や映画の結末をせせら笑います。エイリアン、ロボット、スーパー・コンピューターは、必ずある謎に負ける。それは「愛!」。単なるホルモン分泌に過ぎないものに。
「愛」すら否定されます。時代は人間中心からデータ中心に変わります。情報の自由の時代です。人間もアルゴリズムにしか過ぎません。
3、自分の終わり
困ったことをハラリは予言します。2030~50年の経済社会では、ほとんどの人間が「無用者階級」になる(井上智洋『人工知能と経済の未来』を参照)。
未来社会はスーパーエリートがいれば十分、ほとんどの人は無用になります。
無用者階級はやることがないから、薬物とコンピューターゲームで生きていくようになる。働かなくても所得はあります。
昔、私たちは自分らしく生きることを理想としました。そしてそのために「自分探し」の旅に出ました。自分らしい仕事は何か。もし生きるために働かなくてはならないなら、余暇でいかに自分らしさを取り戻すか。
全ては馬鹿げた問いでした。
「自分らしい仕事」?そもそも「自分」なんてありません。不変の自分なんてありません。さらに未来では、「仕事」もなくなります。
毎日、ドラックとゲームですか・・・、ともに全く興味がありません。
ハラリの言葉を思い出します。
人間が人間至上主義を謳歌できたのは、互いに協力したから、物語のためネットワークを作ったから、ならば未来の私たちも協力のために生きようではありませんか。
「忘己利他」。自分を捨てて、世の中のために生きる。きっとそれは快楽です。