「×××という老いぼれに率いられた子供っぽい集団」の敗北。

THE TED TIMES 2023-45「米国の敗北」 11/29 編集長 大沢達男

 

「×××という老いぼれに率いられた子供っぽい集団」の敗北。

 

1、ならず者国家

英国を代表するジャーナリスト、FT(Finacial Times)のギデオン・ラックマンは、ロシアは今やマフィア国家である、と断じました(2023.9.1  日経)。

1)ブリゴジンの墜落死は、マフィアの暗殺に似ている。

2)プーチンの行動は、裏切りや背信を許さない、犯罪組織のルールそのものである。

3)プーチンサンクトペテルブルク市の副市長だった1990年代に犯罪組織との関係を築いている。

4)プーチンが務めたロシアの情報機関は密輸、資金洗浄、殺人の犯罪組織と常に関係を維持している。

5)ウクライナでの戦争を続けるために、石油・技術の売買に、不法取引、犯罪組織を使っている。

ではロシアとの対比において米国はどうなのか。トランプを見れば似たり寄ったり、とギデオン・ラックマンは診断します。

1)トランプは、プリゴジンが死亡した翌日に、組織犯罪を取り締まる州法で起訴されている。

2)トランプは、米ニューヨーク市の開発事業で富を築き、アトランティックシティーで数々のカジノホテルを建設している。

3)トランプはマフィアの一員のような話し方をする。

4)トランプのメンターは、ニューヨークの犯罪一家に法的助言をした、故ロイ・コーンだった。

5)トランプは、FBI長官を努めたジェーミス・コミーに「忠誠が必要だ」、と「マフィア加入儀式さながらの要求」をしている。

プーチンをトランプを比べるのは、「そっちこそどうなんだ主義( What Aboutism)」と言われないが、二人が置かれている立場は、決定的に違う。

ロシアはマフィア国家で、米国は法治国家

プーチンが犯罪行為で捜査される可能性はゼロ、対してトランプは実刑判決を受けることもあり得るが、まあ、その場合は、バイデンの恩赦を受けるだろう、とギデオン・ラックマンは予想しています。

 

2、ウクライナ戦争

マフィア国家がウクライナの戦争でどうなるかについて、ギデオン・ラックマンはたったの1行しか触れていません。

ウクライナの戦争を継続する必要からも、民間企業と組織犯罪、ロシア政府との境界、以前よりもっと曖昧になる」(要約)。

では戦争はどうなるのか。先行きについては触れていません。

ところが驚く人が出てきました。フランスを代表する歴史人口学者エマニュエル・トッドです。

エマニュエル・トッドは、「米国がすでにウクライナ戦争で負けてしまった」、と断言しました(月刊『文藝春秋』2023.12 p.134~143)。

1)米国は武器弾薬を物理的にウクライナ軍に提供できない。

2)米国には兵器の生産力がない。産業空洞化が露わになっている。

3)逆にロシアは国内の産業基盤を維持し優位に立っている。いざとなれば「世界の工場」中国も当てにできる。

4)GDPは時代遅れ。ロシアとベラルーシGDPは、西側陣営のわずか3.3%。なのにロシアはミサイルを生産し続けている。

GDPでは、経済の金融化、サービス化により、生産力がわからない。経済におけるリアルとバーチャルの対決がある。

5)ロシアは、工業生産力と兵器供給力で、米国とNATOに対して優位に立っている。

そしてエマニュエル・トッドは結論します。

「世界一の大国」は、「バイデンという老いぼれに率いられた子供っぽい集団」、と断定します。

 

3、米国

アメリカ帝国主義NATO)は綻びを見せています。

まずドイツ。米国のヨーロッパでの狙いはロシアとドイツを分断することでしたが、二つの国は、エネルギー面・経済面で相互補完関係にあり、接近しています。

ドイツは戦車レオパルトをウクライナに供与した。しかし「本当は供与したくないんだ」というサインを、ロシアに送っている。独露間を結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」が爆破されたとき、ドイツは沈黙を守った。真意では米国を批判していた。

つぎにポーランドウクライナ崩壊時にはウクライナ西部の併合を求めてきます。

そしてNATOの諸国。米国は同盟国を「衛星国」や「保護領」のように扱っています。

英国、フランス、ノルウェーデンマーク、そしてオランダ・・・しかし米国に追随しているのはこれらの国だけです。

ヨーロッパは、ドルとGAFAMで、米国に支配されてきました。米国は世界に「寄生」し、大量の物資を輸入し豊かに暮らしてきました。そのために「世界の覇権」が必要でした。

一方ロシアはエネルギーでも経済でも自立しています。「寄生」していません。

米国はウクライナで負けた自信を取り戻すために中東に深入りします。勝てる見込みのある「演劇的小規模軍事行動」に出ます。

そして大統領選挙が迫っています。しかしそれは「地球は平らである」と「地球は四角い」のどちらかを選べというほど、不毛なものです。

ギデオン・ラックマンは、このところ「中東」ばかりでヨーロッパを論じていません。「ならず者国家」に代わる新しい見解を期待します。

エマニュエル・トッドの結論は、米国の危機、アングロサクソン世界の危機です。