映画「THE BIKERIDERS」が気に入りました。困りましたね。

THE TED TIMES 2024-49「バイクライダーズ」 12/12 編集長 大沢達男

 

映画「THE BIKERIDERS」が気に入りました。困りましたね。

 

1、バイクライダー

なぜこの映画が好きなのか。自分でもわかりません。

偽善者ではなく「偽悪者(ギアク=ワルぶる)」の私がいるのか。

それとも、もっと深層的に抑圧された自分がいて、いつか弾けることを狙っているのか。

 

「ザ・バイクライダーズ」(ジェフ・ニコルズ監督 アメリカ)は、暴走と暴力の映画です。

私は、おメメをバッチリ開け、おクチもアングリ開け、この映画を最初から最後まで、緊張感のなかで観ました。

数多くのバイクが爆音を鳴らして街を疾走する、カッコいい。

野原に群れて酒を飲み大騒ぎする、仲間に加わりたい。

素手かナイフか、二人の男が殴り合う、上等だ。

彼らは徹底して、法律違反、やりたい放題、鉄拳とナイフ、それに私は拍手していました。

 

1965年~73年、アメリカ・シカゴでの話です。

ひとことで言うと「ベニー」という、暴走するナイーブな男の物語です。

キャッシーという女(ジュディ・カマー)の回想で映画は進行します。

キャッシーは、バイクライダーのベニー(オースティン・バトラー)に、恋し惚れ一緒になります。

バイク仲間には、ベニーより年長のジョニー(トム・ハーディー)という信頼できる、兄貴分がいました。

イクライダー仲間はどんどん増えていき、「ヴァンダルズ」というグループに発展します。

ジョニーがリーダーになり集団をまとめます。ベニーはサブリーダーという感じ。

イクライダー・クラブである「ヴェンダルズ」の栄枯と盛衰、そしてベニーがどうなったかの話です。

 

2、70年代のアメリ

1)ベニーとジョニー

ベニーがたった一人、バーでビールを飲んでいて、二人の客にカラまれます。

「ここで飲むなら、その『ヴァンダルズ』の名前の入ったジャンパーを脱げ」。

ベニーは無視します。

ベニーは二人の客に、片足が使えなくなるまで、ボコボコに殴られます。

 

話を聞いた兄貴分のジョニーが黙っていません。

バーに行き店主を脅し、二人の住所と名前を聞き出します。

しかし店主は許してもらえませんでした。バーには火がつけられ、建物ごと燃えてしまいます。

さらにジョニーは、仲間に命じます。

ベニーを殴った二人に報復してこい、歩けなくなるようになるまで、殴ってこい。

 

ジョニーとベニー、ふたりのシーンがあります。「濃厚」としかいいようがありません。

ふたりはまる恋人同士のように、アップで美しく撮影されています。

ジョニー「おれも歳と取った。次のリーダーはお前しかいない」「みんながお前のように生きたいと思っている」

ジョニー「ぼくは、人を頼りにするのはいやだ。人に頼られのもいやだ」

兄弟仁義」です。

 

2)ソニー

「ヴァンダルズ」にはいろいろな仲間が入ってきます。

そのうちの一人のソニーが、際立ったキャラクターとして、描かれます。

「ロング・ヘア」のウエスト・コースト(西海岸)からやってきた男としてです。

エスト・コーストは、サンフランシスコに代表される、軟派の「ヒッピー」の街でした。

ヒッピーとは、自然、反文明、感覚解放です。

イースト・コースト(東海岸)のシカゴのライダー集団は、日本的にいうと。硬派の「ヤンキー」です。

ヤンキーとは、伝統、規律、暴力信仰です。

つまりヤンキー集団にヒッピーがやってきたという設定になっています。

 

背景の一つには「オルタモントの悲劇」があります。

ロック・コンサートで観客が、ライダー集団(暴力団)「ヘルズ・エンジェズ」に、殺されています。

事件は1969年12月6日、カリフォルニア州トレイシー郊外、オルタモント・スピードウエィで起きています。

ローリング・ストーンズ、ジェファーソン・エアプレイン、CSNYが出演していました。

私はヒッピー(気分)でしたから、「ヘルズ・エンジェルズ」は、恐怖の代名詞として、その名を知っていました。

映画の「ヴァンダルズ」は「ヘルズ・エンジェルズ」と並び称せられる実在の「アウトローズ(Outlaws)」をモデルにしています。

そしてもう一つの背景には、映画「イージー・ライダー」(1969年日本公開1970年)があります。

この映画は実話に基づいた話ではなく、フィクションです。

チョッパーに乗る主人公二人は、ヤンキーではなくヒッピー、ソニーのキャラクター設定に影響を与えています。

ジェフ・ニコルズ監督は、あれやこれやの歴史的事実をうまく散りばめ、映画を作っています。

それが説得力を持ち、映画を単なるフィクションではなく、ドキュメンタリーのようにしています。

東海岸のヤンキーにとっては西海岸はヒッピーは別世界、ソニーは物珍しい西海岸の人として描かれています。

 

3)ベニー

前述しましたように、映画はベニーという「ナイーブな男」の物語です。

ベニーのキャシーへの口説き方が変わっています。

キャシーの家の前にバイクを止めて動かない。日が暮れて、朝が来ても、ベニーはキャシーの家の前から動かない。

口下手なのか。テレ屋なのか。ナイーブなのか。

とてもバイク乗りのヤンキーとは思えません。

映画のエンディングもベニーです。

「バイクに乗っていると事故や、集団間の諍(いさか)いへの巻き添えで、必ず命を落とす」、「バイクをやめて」。

キャシーはベニーに懇願します。

それに耳を貸したのか、ベニーはある日街から姿を消し、ヴェングルズが消滅した後に、キャシーの前に帰ってきます。

そしてキャシーの家の前にバイクを止めているのです。

口下手なのか。テレ屋なのか。ナイーブなのか。

ベニーを演じたのは映画「エルヴィス」でエルヴィスを演じたオースティン・バトラー。

オースティンは、なかなか、いいじゃないですか

 

4)シュリッツ

話は変わります。

ベニーが冒頭のパーで飲んでいたビールは、「シュリッツ」と思われます。

なぜなら映画の最後のシークエンスで、ベニーは「シュリッツ」とはっきり分かるビールを飲むからです。

そして映画は意図的に、さまざまシーンで「シュリッツ」と思われるビールを登場させます。

日本の映画評ではだれも、このビールのことに触れていません。

 

私は70年代のアメリカに、数年にわたり毎年1ヶ月、CMクリエーターとして、フロリダとカリフォルニアに滞在していました。

その時の話です。

アメリカでは日本と違って、レストランやバーで「ビール!」と言っても、オーダーになりません。

銘柄を言わなければ、なりません。

当時の3強は、バッドワイザー、シュリッツ、クアーズでした(私は「Coors(クアーズ)」が好きでした)。

ですから、「シュリッツ」の名は、ドレッシングの「オイル&ビネガー」とともに、アメリカ生活で最初に覚えた単語の一つです。

 

映画でシュリッツが出てくるのは、訳があります。

シュリッツはシカゴのビール、シカゴを舞台にして映画では欠かせないからです。

シュリッツは、全米でナンバーワンの売り上げのビールであったこともありました。

ところが経営不振で1980年代にシュリッツは買収され、さらにシュリッツ・ブランドも売却されてしまいます。

シュリッツという名のビールは現存しているようですが、もう以前のビールではありません。

映画は、なつかしの「シュリッツ」を、重要な脇役として登場させています。

 

3、70年代の日本

1)ブラック・エンペラー

70年代の日本にもバイクライダーを描いたドキュメンタリー映画ありました。

「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」(柳町光男 1976年)です。

自主上映、場所は新宿の安田生命ホール(現・明治安田生命ホール)、集まった観客はほとんどが暴走族。

なぜか私もいました。

ブラックエンペラー」、「ねずみ小僧」、「ルート20」、「アーリー・キャッツ」・・・集まった暴走族の中には顔見知りもいました。

私は、暴走族のメンバーではありませんでしたが、土曜の夜になると「ケンとメリーの」スカイラインで、江ノ島あたりを走っていました。

なかに、「ロータス・ヨーロッパ」っていうスポーツカーがあり、カッコ良く憧れでした。

私の青春も暴走していました。

 

2)ヤクザ映画

暴走する私たちは、「網走番外地」(石井輝男 脚本・監督 高倉健主演 1965年)、「仁義なき戦い」(深作欣二監督 笠原和夫脚本 1973年)などのヤクザ映画にも、熱中していました。

<ドスで切りつける映画に、体制に順応できない大衆は喝采する。>

<自分たちができない乱暴狼藉の夢を、スクリーンの中のアウトローに託す。>

映画評論家は解説に真実はありません。

こんなことではクリエーティブの秘密はわかりません。

1969年1月安田講堂事件、10月新宿騒乱事件。

私たちもマジに乱暴狼藉(ゲバルト)や革命(テロ)を夢見ていたからです。

 

3)総長賭博

自決直前の三島由紀夫が絶賛することによって、ヤクザ映画に市民権を与えることになった。映画があります。

「総長賭博」(山下耕作監督、笠原和夫脚本 1968年)です。

鶴田浩二が自らがテロリストであることを告白した、有名なセリフがある映画です。

「任侠道、そんなものは知らねえ。俺はただのケチな人殺しだ。」

脚本の笠原和夫はエンターテインメントで書いていません。

若き日の笠原和夫はバーに勤め、用心棒をやっていました。

「虚実皮膜(きょじつひまく)」、映画には笠原の血の言葉あります。

 

4、ジェフ・ニコルズ監督

「ザ・バイクライダーズ」のジェフ・ニコルズ監督(1978~)も同じです。

映画には隠された血の言葉あります。

アーカンソー州リトルロック出身。

まず第1に、監督はリトル・ロック出身です。

リトルロックは、1990年ロードレース世界選手権250ccチャンピオンでオートバイ・ロードレース・ライダーのジョン・コシンスキーの故郷です。

優勝は監督が12歳の時の出来事。以来監督はバイクに憧れ、バイクに熱狂した、バイク・オタクです。

第2に、リトルロックは、1957年に黒人の高校入学をめぐり、州兵と連邦軍が対峙したところとして、世界的にその名を知られています。

州兵は黒人入学を阻止しました。監督は口には出しませんがアーカンソー州の「ソッチ派」です。

第3に、だから映画に黒人を登場させていません。

「ザ・バイクライダーズ」のメンバーに黒人いません。登場人物に黒人もいません。

昨今の人権主義的映画づくりからは信じられません。

監督は、やはり口には出さぬが、反リベラリズムです。

映画はやりたい放題を描いていますが、映画自体はストイック(禁欲的)です。

テロはいいけど、エロはできない。

やりたい放題の映画であるけれど、セックス・シーンは描けない。

ナイーブな私にはできない・・・その監督の「純」な気持ちに共感しました。

ベニーは私です。

だから「映画」は私の心を捉えてなさないです。

 

end