THE TED TIMES 2025-5「グランメゾンパリ」 1/28 編集長 大沢達男
告白します。木村拓哉主演の映画『グランメゾン・パリ』のエンディングで、不覚にも泣きました。
1、木村拓哉のアップ
映画『グランメゾン・パリ』(塚原あゆ子監督 TBS SPARKLE製作)は、テレビドラマ『グランメゾン東京』のメンバーがパリでレストランを立ち上げ、ミシュランの3つ星に挑戦する映画です。
テレビドラマを見ていませんが、鑑賞の妨げにはなりません。ストーリーはわかります。
シェフの尾花夏樹(木村拓哉)は、スーシェフ( sous-chef 副料理長 鈴木京香)を一時失ったり、パティシエのリック・ユアン(オク・テギョン)の暴力事件に巻き込まれたり、あるいはパリでの食材の新鮮な野菜、良質の肉、美味のキャビア、などの入手に苦労しますが、最後にはミシュランの3つ星を獲得しハッピーエンドで終わる、簡単な映画です。
もちろん映画にとってもグランメゾン・パリにとっても、最大のテーマは「フランス料理とは何か」であり、「お客さまに幸せな時間を提供するとは何か」です。
なぜ三つ星を獲得できたのか。
それは日本人と韓国人とグローバル・サウスの人々が協力して新しいフランス料理と新しいサービスを発明できたからです。
つまり日本とグローバル・サウスの力が世界を動かしたのです。
私は受賞へ感謝するの尾花夏樹(木村拓哉)のフランス語のスピーチを聞きながら不覚にも泣いてしましました。
木村拓哉のアップで映画は終わり、劇場はすぐに明るくなり、涙をぬぐっている時間がありませんでした。
泣いていたのは(たぶん)私だけ、かっこ悪かったのです。
2、フランス料理をテーマにした二つの映画
映画『グランメゾン・パリ』のライバル映画は世界最強の2作です。
まず一昨年の『ポトフ』(トラン・アン・ユン監督 フランス)、そして昨年の『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』(フレデリック・ワイズマン アメリカ)です。
結論から言うと、『グランメゾン・パリ』を『ポトフ』と『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』に比べることはできません。
まず『ポトフ』。
野原に長くテーブルを並べ、30人ぐらいの人が食事をするシーンがあります。
芝生の緑、樹々の緑、鳥の鳴き声、そして青空、あたりには陽の光が溢れています。
そこで映画の主人公である美食家ドダン(ブノア・マジメル)と料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノッシュ)が結婚を発表します。
映画の中のひとつのクライマックス・シーンです。
映画『ポトフ』は、ルノアール、マネ、モネなどの印象派のタッチを持った映画です。
一方で、室内での料理のシーンは、渋い色調のレンブラント・カラーで撮影されています。
アップでの野菜、肉、鶏肉、スープなっどの食材、銅製の鍋、皿、暖炉の火。
映画『ポトフ』の映像は、バロックです。
全ての映像が一切の音楽を拒否し続けます。
鳥の鳴き声、動物の遠吠え、煮炊きの音、調理器具の音、物音だけで映画は構成されています。
映画のテーマは「フランス料理」への伝統の田舎の鍋料理「ポトフ」の反抗です。
映画『ポトフ』は明らかに映画を発明しています。
次に『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』。
1966年東京・銀座にフランス料理店「銀座マキシム・ド・パリ」がオープンします(2015年閉店)。
その時、映画の主人公ミッシェルの父ピエール・トロワグロは、初代料理長として東京に来て滞在していました。
映画のメニューの説明の中で「ジャポネ」という単語が尊敬を込めて何度も言われます。
キッチンにもテーブルにも醤油というソースがあります。
父ピエールと息子のミッシェル、二人のトロワグロは、印象派のロートレックが浮世絵の影響を受けたように、ヌーヴェル・キュイジーヌ(新しいフランス料理)の料理人として懐石料理と会席料理の日本料理から学びました。
映画の中で客に向けて「何かアレルギーになるような食べ物はありませんか?」と尋ねるシーンがあります。
すると客は「『勘定書き』というのが嫌いなんだ」と答えます(笑)。・・・・・・これがフランス料理の楽しみ方でしょう。
まず映画は、トロワグロによって成し遂げられた市民のための「フランス料理の革命」を描いています。
レストランは市民のおしゃべりの場になりました。
つぎに食材。スケールが違います。
食材のために、レストランを都市から農村に移してしまいます。
朝に料理人自らが新鮮な食材を採取し、自然破壊をせずに牛を飼育する。
ここにトロワグロの成し遂げたフランス料理革命の本質があります。
そして言うまでもありませんが、『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』は、映画を発明しています。
240分の長編ドキュメンタリーですが、ナレーションが、スーパーが、そして音楽がありません。
ないないづくしの映画の冒険です。
3、グローバル・サウス
なぜ映画『グランメゾン・パリ』のエンディング泣いたのか。
安永竜夫(日本貿易会会長 三井物産会長)が、「日本人は頭の中が鎖国していないいないだろうか」と問い、グローバルサウス(新興・途上国)と仲間になろうと提案したからです(日経11/2)。
日本が持つ経験、技術、人材をグローバルサウスへ、グローパルサウスからは働き手を招く。
日本人は頭の開国をして、大谷翔平や反田恭平(注:ピアニスト)のような、世界の経済人を出す必要があると言ったからです。
映画の主人公尾花夏樹(木村拓哉)は、まさしく安永竜夫が言う世界の新しい経済人でした。
元旦の毎日新聞は社説は「自国第一」の世界の「人道第一」にせよと主張しました。
読売新聞も日本は「自国第一」ではなく「国際協調」の先頭に立てと説きました。
映画『グランメゾン・パリ』の尾花夏樹(木村拓哉)こそ、まさに「人道第一」・「国際協調」の先頭に立っているのではないでしょうか。