梅原哲学は、「国体」を論じていない。

クリエーティブ・ビジネス塾27「梅原哲学」(2013.7.25)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、哲学
あなたは自分の哲学を持っていますか。哲学とは、世間をどう見るか、人生をどう生きるか。世界観、人生観です。哲学とはフィロソフフィー(philosophy)の訳語で、知を愛するという意味です。知とは真理のことです。嘘や間違いを批判することです。そして哲学は、認識論、存在論倫理学からなり、学問の基礎になるもので、ソクラテスアリストテレスプラトンギリシャから始まりました。
いまは哲学がない時代、哲学の危機の時代といわれています。技術開発競争の結果、新発見、新発明、テクノロジーにばかりが話題になり、技術の意味、技術が何を人にもたらすかを、考えなくなってしまったからです。つぎに、哲学を研究する学者が、過去の哲学の解説で満足してしまい、自らの哲学をだれにでもわかりやすく話すことを、しなくなってしまったからです。
美容師の天才ヴィダル・サスーンには、孤児院の経験から、美しいものに囲まれて暮らしたい、哲学がありました。アイフォンを開発したスティーブ・ジョブズには、ヒッピー生活で学んだ、コミュニケーションを拡張し感覚を開放する、大きなテーマがありました。
専門技術を磨き職を手にするは大切ですが、人としての教養を忘れないように、遠回りのようですが哲学を持つことが仕事で成功する道です。
2、梅原猛
日本を代表する哲学者梅原猛(1925~)が、新著『人類哲学序説』(梅原猛 岩波新書)を出しました。梅原は、西洋哲学を学びながらも、法隆寺柿本人麻呂の日本の古代を論じ、歌舞伎のシナリオを書くようなクリエーティブな仕事をし、さらに日本を代表する経営者・稲盛和夫に影響を与えている、現存する最も偉大な哲学者の一人です。
「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどさいかいじょうぶつ)」。このひと言に、梅原の新著は要約されます。生きとし生けるもの、草も木も、動物も人間も、そして国土すら、ものみなすべてが、仏さまになり、救われる。これを天台本覚思想といいますが、日本のすべての仏教は、これを思想的な前提にしている。さらには神道の思想も。日本文化の本質を解くカギがここにあると梅原は主張します。
1)自然破壊・・・日本の国土は70%が森林に覆われています。対して欧米はどうでしょう。「ギリシャの自然破壊というのは、とにかく凄まじい(中略)。自然破壊はプラトンの時代に始まって、キリスト教になって決定的になりました」(前掲p.119)。自然を大切にする思想が西洋にはありませんでした。
2)言葉・・・西洋において言葉を扱うのは人間だけでした。日本は違いました。「日本では、人間ばかりか、鶯も、蛙も歌を詠む」のです(前掲p.116)。松風、雨、天地のすべてが歌である。この思想は、言葉を持つのは人間だけの思想とは100%違います。
3)縄文時代・・・いまから13000年前〜3000年前は、狩猟採集文明の縄文時代でした。その原初文化はアニミズム、あらゆるものに霊が宿り、神がいたる所にいるという思想。この思想が神道になり、日本では受け継がれてきました。狩猟採集、漁労採集文化は世界共通であったはずです。ところが、西洋ではは、牧畜麦作、一神教になり、そして地球環境のさまざまな問題を抱えるようになっています。
3、皇室伝統
梅原の仕事にはいつも感動します。しかし世界が納得するだろうか。疑問が残ります。
梅原は日本国憲法平和憲法)の擁護者として知られています。なぜ占領国米国が西洋の思想で書いた憲法を受け入れるのでしょうか。つぎに梅原は皇室に触れたがりません。そして西洋思想を批判しながら、大和の「和」と「国体」(国家の根本原理、見えない憲法)を語りません。
人口減少、少子化、働かない若者で、日本は滅びます。占領軍の日本人撲滅作戦の成果です。まず占領軍は、「極東裁判」、「太平洋戦争史」、「日本国憲法」で日本人を洗脳しました。つぎに大東亜戦争、占領軍、神道を論じることを禁じました。そして私信を開封する徹底した言論弾圧で日本人の骨抜きに成功しています(『閉された言語空間』江頭淳 文春文庫)。人類の危機以前に、日本人の危機があります。必要なのは、「人類哲学」ではなく、「日本人の哲学」ではないでしょうか。