中国映画のロウ・イエ監督は、世界ランクNo.1

クリエーティブ・ビジネス塾11「ロウ・イエ」(2015.3.11)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、映画の芸術
人をやる気にさせる映画があります。よーしオレも今日から映画監督だ。シナリオを書き始めるぞ。表現への意欲をかき立てる映画を、芸術映画と言います。
中国人のロウ・イエ監督の映画は芸術です。それも中国の新しい都市文化で生まれた、私小説風で、愛と性を問う、普遍的で本質的で、分かりやすく、しかもみずみずしい感覚に溢れた、映画の芸術です。
2、映画の革命
1)まず、ロウ・イエ監督を有名にしたのは『天安門、恋人たち(Summer Palace)』(2006年)です。天安門事件のシーンがあるために、5年間の映画製作・上映禁止処分を受けた、いわくつきの作品です。
(なにを撮ったか)1987年、田舎娘の余紅(ユー・ホン)に北京の大学から合格通知がきて、寮生活を始める。ユー・ホンには恋人、周偉(チョウ・エイ)ができる。1989年天安門事件が起きる。ユー・ホンは大学をやめ、ふるさとの田舎に。チョウ・エイはリー・テイのボーイフレンド、ロー・グーの紹介でベルリンに行く。
(どう撮ったか)民主化運動のデモ隊と中国人民解放軍の衝突を描いた、勇気はすごい。でもこれは、これは民主化運動の映画ではない。愛の不毛を描いた極めて都会的な映画です。学生寮で繰り返される強烈なセックスシーンがあります。全編140分。若者たちは野獣のようにセックスします。
2)次の注目作は、『スプリング・フィーバー(Spring Fever)』(2009年)。映画製作禁止処分中に、家庭用デジタルカメラで、ゲリラ的に撮った男性の同性愛物語です。
(なにを撮ったか)会社を経営し、ふつうの結婚生活を送りながら、同性愛の恋人(ジャン・チョン)がいる夫(ワン・ピン)。妻(リン・シュエ)は男性(ルオ・ハイタオ)の探偵を雇いそれを追跡する。秘密は暴露され、夫婦関係、同性愛関係は壊れる。しかしそのあと、夫の恋人(ジャン・チョン)と探偵(ルオ・ハイタオ)の同性愛関係が始まってしまう。ルオ・ハイタオには異性の恋人がリー・ジンがいた。男ふたり女ひとり、スリーサムの不思議な生活が始まる。
(どう撮ったか)家庭用デジタルカメラの映像は解像度が悪く、全体的に暗く、よく見えない所もあります。しかし映画は大迫力。同性愛のセックスシーンは映画『イブ・サンローラン』よりはるかに露骨。映画『ソドムの市』よりはるかに愛があります。シャワー室での愛のシーンが特に美しい。
3)そして、最大の傑作『パリ、ただよう花(Love and Bruises)』(2011年)があります。これは、世界の経済大国北京のお嬢さんと落ち目のパリの最下層アルジェリア移民の肉体労働者の恋物語です。
(なにを撮ったか)エリート女性教師・ホアが、肉体労働者・マチウと、パリの街で知り合う。ふたりはその日のうちに夜の路上で結ばれる。肉体労働者の乱暴な性にエリート女性の官能が反応してしまう。しかし文明というパンツをはいたふたりには、交友関係、家族関係、社会関係で、大きな違いがあった。
(どう撮ったか)まず上流階級のホアと下流階級のマチウのセックスシーンが素晴らしい。ロウ・イエ監督は、セックスではなく、エクスターを描いています。オープニングのストリートでのセックス、エンディングの連れ込みホテルでのセックス、インテリ女のホアは、全編官能の悦びに満たされます。逆に映画が描く、インテリのホアと肉体労働のマチウの生まれ育ちの違いは、残酷です。マチウには妻がいました。アフリカ系黒人、しかも妊娠、貧しい家庭。マチウの両親、兄妹は、狭い家に住み乱暴な言葉遣いをする下流、一方でホアは帰国を待つ誠実な男がいて、北京の大学での仕事が待っている上流です。
3、映画の誕生
ロウ・イエ監督が好きなミケランジェロ・アントニオーニ監督(1912~2007)は、映画『欲望』(1967)で、若者たちが集まるロンドンのライブハウスのシーンを入れました。演奏していたのは「ヤードバーズ」のジェフ・ベックジミー・ペイジ。ふたりとも現在でも活躍する「旬(しゅん)」で伝説のギタリストです。
天安門、恋人たち』(2006年)と『パリ、ただよう花』(2011年)の北京(2000万人)、『スプリング・フィーバー』(2009年)の南京(800万人)。ロウ・イエ監督は、世界の大都市を抱える中国で、21世紀の都市物語を映画にしています。ロンドン(1000万人)、パリ(1200万人)、ニューヨーク(1800万人)、東京(1300万人)は過去の大都市になります。中国のライブハウスやクラブで演奏している若者が、21世紀を代表するミュージシャンになります。ロウ・イエ監督は未来を描くために、映画を発明しています。