トランプ、ポピュリズムは悪なのだろうか。

クリエーティブ・ビジネス塾10「ポピュリズム」(2016.3.2)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、トランプ
「メキシコとの国境に『万里の長城』を建設し、メキシコにその費用を支払わせる」、「(メキシコ人)彼らは強姦魔だ。中には善良な人もいるかもしれないが」、「イスラム教徒をアメリカ入国禁止にすべきだ」、「日本の安倍、(米経済の)殺人者だが、やつはすごい。地獄の円安で、アメリカが日本と競争できないようにした」、「他国がアメリカを攻撃しても、日本はアメリカを助けなくてよい。なのに他国が日本を攻撃したら、アメリカは日本を助けなければならない」。
衝撃的な発言を繰り返すドラルド・トランプが、共和党米大統領候補になりそうです。しかしどの報道を読んでもトランプは、まるで相手にされていません。トランプはポピュリズムの権化、いずれは消えてゆく。ポピュリズムとは、衆愚政治反知性主義です。トランプの登場は民主主義の危機としてとらえられています。
たとえば、ヒラリーVSトランプでは共和党は勝てない。マイケル・ブルームバーグニューヨーク市長に出馬してもらうべきだ。ポール・ライアン下院議長でもよい(経済コンサルタント G.シリング氏 日経3/3)。移民の流れを阻止すれば、米国のダイナミズムが失われる。世界を変えるイノベーションへの悪影響は計り知れない(D.オキモト スタンフォード大名誉教授 日経3/3)。トランプ氏が米国民の人気を集める理由のひとつが移民排斥をあおる発言にある(中略)。ポピュリズムの潮流に世界をのみ込ませないための手だてを考えたい(日経社説 3/3)。
トランプを選ぼうとしている米共和党員は全く馬鹿にされています。
2、ポピュリズム
世界の先進国はポピュリズムの時代を迎えています。英国で移民権利制限を訴える英国独立党(UKIP)、フランスで移民排斥を主張する国民戦線(FN)、スペインで雇用創出を掲げる左派政党ポデモス、ギリシャ急進左派連合(SYRIGA)など、それに米国共和党のトランプが加わっています。
ポピュリズムとは何でしょう。まずポピュリズムは、社会のエリート・既得権益層に虐げられているサイレントマジョリティ(声なき多数派)を代表することを、本質にしています。エリートへの異議申し立てです。
つぎにポピュリズムは、個人の理性や法の支配の自由主義的原理を嫌います。ヨーロッパでいえば、不況の原因はユーロと金融資本と結託しているエリート層にあると、されます。
そしてポピュリズムのリーダーは倫理的な共同体や民族、地域、言語を核にした国民国家を主張します。
つまり民主政治が危機にあるからポピュリズムは起こっています(「ポピュリズムにどう向き合う」上 吉田徹北海道大学教授 日経2/4)。
ポピュリズムはいいことずくめのようですが、暴走することがあります。
まず多数者が自らにとっても、不利益な行動をするケース。たとえばバラマキをすれば財政は破綻します。第2次世界大戦前のドイツや日本のように、多数派が戦争を選択する場合もあります。そうならないためには、政府による徹底した情報の開示です。責任政党の確立、信頼されるブランドになることこそが、有権者の適切な判断にとって必須です。
つぎに少数派を弾圧する「多数派の専制」があります。民主主義の「内」にいる有権者が「外」にいる者を抑圧するケースがあります。欧州の移民問題、そして日本の財政赤字では、現役世代が将来世代に借金を付け回しています(加藤創太国際大学教授「ポピュリズムと向き合う」下日経2/5)。
3、民主政治
AKB48」が嫌いな音楽プロデューサーがいます。ポピュリズムだ、大衆迎合だ衆愚だ、日本の音楽のレベルを下げている。「AKB48」はポピュリズムでしょうか。
だれがポピュリズムを断定するのでしょうか。ポピュリズム大衆迎合主義ですが、大衆の判断が適切であるなら迎合は問題になりません。ポピュリズムとは、既成の保守やリベラルが気に入らない政策、のことではないでしょうか(前出 加藤創太国際大学教授)。
メキシコの金で国境に城を造る。いい奴もいるが強姦魔もいる。イスラム教徒のテロリストを入国させない。安倍は円安で挽回しようとしている。日本はアメリカのために戦わない。どれひとつをとっても、トランプは間違えたことを言っていません。ただ米国人が喜ぶ冗句(joke)を言っているだけのようですが。