クリエーティブ・ビジネス塾43「金王朝」(2017.10.23)塾長・大沢達男
「北朝鮮は核もミサイルも持つ。じゃあ、どうするか」
1、八方ふさがり
北朝鮮は7月4日と7月28日に、ICBM級の「火星14型」のミサイルを発射しました。9月3日には6回目核実験をしました。従来の10倍以上、水爆実験の可能性があるものです。北朝鮮はすでに最大60発の核爆弾をもち、弾道ミサイルに積める核弾頭も生産、来年には核ICBMを配置する見通しです(日経10/4)。
この北朝鮮に対して、国際社会は制裁を科しました。まず9月11日に国連安保理は石油輸出を3割減らす経済制裁を決議しました。さらに米国は9月21日に、北朝鮮と取引する企業や個人を制裁対象にした、米国独自の経済制裁を決定しました。しかし北朝鮮は立ち止まる気配を見せません。
このままでは、核武装を禁じた核拡散防止条約(NPT)の体制は崩れます。すでにミサイルの射程内にある日韓は核の脅威にさらされます。さらには日韓に駐留する米兵やその家族も核の脅威にさらされます。
果たして、金正恩は核開発を諦めるでしょうか。かつて核放棄に応じたリビアの元指導者カダフィ氏は、結局政権を倒され殺されています。また「核保有国」ではないのに、事実上は核兵器を所有しているパキスタンの例もあります。
金正恩は、どんなに脅され経済制裁を受けようと、核武装をやめるわけがありません。
八方ふさがりです。米国はサダム・フセインのイラクのように攻撃を仕掛けるのでしょうか。あるいは北朝鮮は休戦協定を破り、韓国に軍隊を送るのでしょうか。日本にミサイルが打ち込まれるのでしょうか。戦争が起きるのでしょうか。
2、シュミレーション
結論から言います。戦争は起きません。
小学生のような物言いですが、佐藤優氏が断言してくれました。「トランプの『北の各容認』に備えよ」(佐藤優 『文芸春秋』11月号)です。佐藤氏は現在の日本で最もレベルが高い論客のひとりです。説得力に富むばかりでなく、その論理は魅力的で、しかもウィットに富み、魅惑すらされます。
第1、米国は戦争に踏み切れない。
北朝鮮が38度線を突破してきた場合。ソウルは2日間で陥落。35万人の死者。その後米軍の反撃で2ヶ月後に北朝鮮は完全に制圧される。死者は100万人以上。約4万人の在韓邦人を韓国から日本に避難させるのも極めて困難。飛行機は1機で500人、釜山からの船で脱出も、陸路が絶えていることを考える非現実的。同じことは約20万人の在韓米人についても言える。だから、米国が北朝鮮への先制攻撃もむずかしい。在韓米人に数百人の死者がでれば、トランプ政権は苦境に立つ。
第2、「思想戦」で米国は敗北している。
アメリカ的価値観は、個人の生活が中心になる個人主義、負ける戦いはやらない合理主義、人間の命は何よりも尊い生命至上主義の三原則。対して北朝鮮は、「首領様」、「金王朝」を、生命を投げうってでも守ろうとする。チキンレースになれば、米国が譲歩せざるを得ない。軍事力の問題ではない。
第3、金正恩の最終目標は米国との平和条約の締結である。
核兵器と弾道ミサイルの開発は米国をテーブルにつかせるための外交カードである。米国と北朝鮮の二国間交渉で核兵器容認をみとめさせること(落としどころはICBMの凍結)。だから経済制裁は効かない。トランプの経済制裁と強気な発言は、「一応全力を尽くした」という、国際社会へのポーズでしかない。
佐藤優氏の分析は以上です。なるほど、なるほど、・・・どうですか。
3、国体護持
なぜ佐藤優氏の論理に魅惑されるか。
それは、北朝鮮の至上の価値観として「国体護持」を、取り出していることです。
北朝鮮の国体護持が保障されれば、米朝国交正常化は進む。そうなれば、北朝鮮の労働力は質が高いだけに、市場原理の導入により大量消費文明が浸透し、独裁体制は内部から崩壊する、と予測するのです。
戦後の日本は「国体護持」が保障されたために、米国の占領を受け入れた。そして戦後民主主義と個人主義・合理主義・生命至上主義の三原則を自分たちのものにしてきたというのです。北朝鮮もやがてそうなる。
これでひとまず安心です。佐藤氏の結論は八方ふさがりの現状に光をあててくれました。
しかし・・・しかし、以上の緒論は佐藤優氏のアイロニーです。何となれば佐藤優氏には『日本国家の神髄(禁書『国体の本義』を読み解く)』(佐藤優 産經新聞社)という名著があるからです。
まず、佐藤氏は金王朝と日本の皇室伝統を並べて論ずる無謀を百も承知でしています。誕生わずか69年の共産主義の金王朝と、皇紀2677年の日本を同じ「国体」と同一視することはできません。
次に、佐藤氏は戦後民主主義の成れの果てに言及していません。戦争に敗れたことは思想において日本人が劣っていたことを意味するものではありません。西欧の限界はアトム的人間観(個人主義)にあります(前掲p.9~10)。にもかかわらず、大量消費文明により、日本の人口は減少を続け、30世紀に日本民族は滅亡する運命になっています。
「百姓貧しきは、則ち朕が貧しきなり。百姓富めるは、則ち朕が富めるなり」(仁徳天皇 p.139)