クリエーティブ・ビジネス塾38「渋野日向子」(2019.9.16)塾長・大沢達男
スマイリング・シンデレラは、日本女子ゴルフ界のタイガーだ。
1、全英女子オープン
8月4日女子ゴルフのメジャー大会であるAIG全英女子オープンで渋野日向子(20歳)が優勝しました。日本人がメジャーを制覇したのは、1977年の樋口久子以来42年ぶり、2人目の快挙です。
渋野?だれ?それ?
知らなくてあたり前です。2018年にプロになったばかり、アマチュア時代に目立った活躍なし。ことし5月、
国内メジャー、ワールド・サロンバス杯で初優勝、そして6月に年間獲得賞金ランキング3位になり8月の全英女子オープンへの出場権を獲得、7月に資生堂アネッサレディスオープンで優勝、そして今回の海外メジャーでの優勝になりました。渋野の名前が出るようになったのは、わずかに3ヵ月前からです。
宮里藍が18歳のアマチュアでプロツアーを制し、2003年プロになります。たくさんの小学生が、「藍ちゃんブーム」の影響でジュニアゴルファーのへの道を歩き始めます。畑岡奈紗、小祝さくら、勝みなみ、新垣比菜、原英莉花、河本結、大里桃子、1998年生まれの黄金世代が日本の女子ゴルフを席巻しています。
2、スマイリングシンデレラ
なぜ、渋野はメディアで取り上げられたか。それは笑顔でした。現地では「スマイリングシンデレラ」と報道されました。
バーディーを決めたときの弾ける笑顔、ミスショットをしたあとはうつむきそして頭を上げ微笑、ギャラリーともハイタッチ。特に印象に残ったのは、プレーの合間にお菓子を食べていることでした。
何を食べていたか。スケソウダラの駄菓子「タラタラしてんじゃねーよ」。「よっちゃんイカ」のよっちゃん食品工業の製品です。プレー中に大好きなお菓子を食べて、緊張を乗り越えました。
「初めて会った時、あなたは笑顔をたやさず、周りにいる私たちを幸せな気持ちにしてくれました。そんなあなたのくったくのない笑顔とホスピタリティは、私たちビームス目指す姿と重なり、共感してきました。(中略)世界一の笑顔ありがとう!」(日経8/8)。ゴルフウエアの契約をしているBEAMSの広告です。
3、スポーツゴルフ
渋野のプレーの映像を見て驚きました。「タラタラしている」、「スマイリングシンデレラ」ではないからです。全英女子オープンでは平均260ヤード以上のドライバー。その微動だにしない下半身から繰り出される地を這うようなスイングは、PGAツアー屈指の飛ばし屋、ダスティン・ジョンソンを思わせるものです。
ゴルフに興味を持つようになったのは、タイガー・ウッズから、それまでのゴルフはおっさんゴルフでした。海外でも酒と葉巻とセットの紳士のレジャ-、日本のゴルフ場も昼にはビールを飲んで、終われば豪華な浴場に入り宴会、とてもなじめないものでした。ビジネス・ゴルフはギャンブルに近いような「ゲーム」、「スポ-ツ」ゴルフではありませんでした。
それをタイガーはすっかり変えました。ゴルファーはアスリートに、プロツアーでは最新のトレーニング理論と肉体強化が常識になりました。下腹の出たゴルファーは追放されました。
黄金世代を育てた宮里藍は、たしかに新しい時代の象徴でしたが、155cm、52kg。トーナメントで本人の練習を見て、申し訳ないけど、アスリートという印象を持てませんでした。対して渋野日向子は165cm62kg、安定した下半身はアスリート、そのものです。
渋野の父親は筑波大学の砲丸投げ、円盤投げの選手、母親は筑波大学のやり投げの選手です。渋野は小学生のころソフトボールをやっていました。母親が証言します。「ゴルフは手首を痛めやすいスポーツですが、ピッチングやっていたから手首も結構強い」、「ゴルフは右打ち、ソフトは左打ち、うまくバランスを整えることができた」(「母が明かす”スマイルシンデレラ”の育て方」渋野伸子 p.339 『文芸春秋』2019.10)。渋野日向子の登場は、「スポーツとしてのゴルフのイメージアップへの貢献に計り知れない」(井上透東大ゴルフ部監督 日経8/20)。渋野は日本女子ゴルフでのタイガーに近い存在といえます。東京五輪では、女子の畑岡と渋野、男子の松山と石川、金メダルが期待されます。
私たちが渋野から学べること、それはリカバーリー率(スクランブリング=パーオンしないホールでのパー以上のスコア)。直近の7試合では78%以上を記録しています(『週刊パーゴルフ9/24』p.23~4)。かつてのタイガー・ウッズもリカバリー率1位の常連でした。それがオーバーパーなし29ラウンドの新記録につながりました。グリーンを外しても寄せてパーにする、この秋は渋野ゴルフでいきましょう。