『Once upon a time in Hollywood』の楽しみ方。

クリエーティブ・ビジネス塾39「タランティーノ」(2019.9.23)塾長・大沢達男

 

『Once upon a time in Hollywood』の楽しみ方。

 

1、映画オタク

クエンティン・タランティーノ(1963.3~以下タラ))は映画オタクです。映画は、タラと同等の映画知識を、観客が持っていることを前提に、制作されています。でないと楽しめない。「映画検定」のような映画です。

タラの映画は以下のデータベースをもとに作られています。1)三隅研次座頭市』(勝新太郎)、『子連れ狼』(若山富三郎)。2)石井輝男網走番外地』。3)深作欣二仁義なき戦い』。4)北野武キッズ・リターン』。5)本田猪四郎ゴジラ』。他に鈴木清順、石井聰互、塚本晋也三池崇史など。基本はアクション、ヴァイオレンスです。外国の監督も同じです。1)ジャン=ピエール・メルヴィル『いぬ』(ヴェルモンド)、『サムライ』(ドロン)、『仁義』(ドロン)。2)サム・ペキンパーワイルドバンチ』。3)ドン・シーゲル『ダーティー・ハリー』。4)ブライアン・デ・パルマ殺しのドレス』。やはり暴力ものです。

タラの博識と映画への情熱は尊敬しますが、無闇にその知識に恐れを抱く必要はありません。

今回の映画『Once upon a time in Hollywood』は、1969年から70年代にかけてを舞台にしています。映画検定に加えて、70年代検定のような映画です。面白い、タラ。君は1963年生まれ、まだ6歳の1969年のことをどこまで描けているか検定してあげよう。

2、1969.8.9

映画は1969.8.9にロスアンゼルスで起きた映画監督ロマン・ポランスキー家の殺人事件を軸に展開されます。主人公は映画俳優・リック(レオナード・ディカプリオ)と彼のスタントマン・クリフ(ブラッド・ピット)です。リックはテレビドラマで売れ、映画でも活躍しましたが、いまはボチボチ。従ってクリフの景気も良くありません。ある日、リックとクリフの隣に、ロマン・ポランスキーシャロン・テート夫妻が引っ越してきます。そして事件が起こります。それがすべてです。

1)リックはどんなドラマで売れていたか。60年代にヒットした『拳銃無宿』(主演・スティーブ・マックイーン)、『ガンスモーク』(主演・バート・レイノルズ)のようなドラマです。リックがイタリア製の西部劇に出ないか、と誘われるシーンがあります。こちらはTVドラマ『ララミー牧場』でブレイクし、マカロニ・ウエスタンで活躍したクリント・イーストウッドを想像させます。

2)リックの家そのとなりのポランスキー夫妻の家へはシエロ・ドライブという坂道を上って行きます。私も同じような場所に住むプロデューサー宅に打ち合わせに行きました。いかにもロスアンゼルス。リックは台詞を覚えるときに、自宅のプールのマットを浮かべ、本を持ちテレコを置いて、酒を片手に、お稽古します。カリフォルニアの家にはプールがあります。これぞハリウッド。カッコいい。

3)かたやクリフはトレーラーハウスに愛犬のブランディと住んでいます。バックスキンの茶色の靴、ブルージーンとアロハシャツ。60年代です。カッコいい。撮影所でクリフとブルース・リーが出会い、ケンカをするシーンがあります。ブルースがクリフにぶっ倒されるなんて、ムリ。タラは中国を大切にすべきです。

3、ヒッピー

1969年8月8日の夜、リックは自宅へのヒッピー野郎、侵入者に対して「おい、デニス・ホッパー!』と怒鳴ります。デニス・ホッパーとは映画『イージー・ライダー』の監督・主演のデニスです。

シャロン・テート殺害事件を起こしたのはチャールズ・マンソンをグル(導師)とするカルト教団のメンバーです。彼らはヒッピー風ですが、紛れもない犯罪者集団です。マンソンをヒッピーといえません。

シャロン・テート殺害の1週間後、ウッドストック・ロック・フェスティバルが開かれて40万人を集めたが、それがカウンター・カルチャー最後の輝きだった」(町田智宏62年生まれ・映画評論家 映画カタログ)。

シャロン・テート殺害事件はヒッピー幻想の最後に残ったひとかけらまでを破壊し尽くした」(柳下毅一郎63年生まれ・映画評論家 映画カタログ)。

オイオイ、きみたち、何も分かっていないね。タラも同じだよ。それは使われている音楽でもわかります。

ミセス・ロビンソン』(サイモン&ガーファンケル)は不滅の名曲だよ、でも当時はコンサーバティブ(保守派)の音楽。『カリフォルニア・ドリーミング』(フォセ・フェリシアーノ。原曲はママス&パパス)、ホセはいい。でもホセじゃダメんだよ。『ハッシュ』(ディープ・パープル)もいい。でも違う。タラはヒッピーを知らない。

ヒッピーのグルとはスティーブ・ジョブズです。ジョブズがいなければ、スマホ(感覚拡張のツール)も、ロハスも、ビーガンもありません。ヒッピーはブタ野郎ではない。タラも映画も、ヒッピー検定で、不合格です。