TED TIMES 2020-17「21レッスンズ-1」 4/11 編集長 大沢達男
「核」、「生態系」、「テクノロジー」。3つの問題解決で人類は協力できる。以下は、『21 Lessons』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。
1、幻滅(自由主義の終わり)
20世紀には3つの大きな物語があった。ファッシズム、共産主義、自由主義の物語だ。勝ち残ったのは自由主義。しかし21世紀は自由主義の物語に幻滅している。第1に、自由主義のグローバルな単一の物語は、西洋の帝国主義の産物ではないか。第2に、自由主義は生態系の崩壊に対して明確な答えを持っていない。第3に、自由主義はITとバイオテクノロジーの双子の革命の対処できる能力を疑われている。
2、雇用(AIが仕事を奪う)
2050年の雇用はどうなっているか。人類はAIに仕事を奪われているか。あるいは新しい仕事に就いて繁栄を謳歌しているか。AI医師は何十億の人に優れた医療を安く提供する。アルゴリズムはバイオメトリックデータを使いあなた専用のメロデイを生み出す。芸術から医療まで伝統的な仕事はなくなる。逆にAIが仕事を創出することもある。アメリカ軍ではプレデターなどのドローンを飛ばすために一機あたり30人、さらに情報分析のために80人が従事している。無人機のために人手不足になっている。最低所得保障(ベーシックインカム)という新しいモデルがある。子どもの養育も仕事にする考え方もある
3、自由(デジタル独裁国家)
人間の自由は最も価値あるものとされている。人々は王に従うのではなく自ら政権を選ぶべきだ、生まれでカーストが決まるのでなく自ら職業を選ぶべきだ、親が選んだ相手と結婚するのではなく自ら配偶者を選ぶべきだ。すべて「イエス!」と答えたならば、あなたは自由主義者だ。かつて私たちは何千年にもわたって人間の自由より神の言葉を神聖視すべきだと信じてきた。そしてふたたび人間からアルゴリズムに権限は移譲される。ビッグデータアルゴリズムの権限が確立され、個人の自由という考え方は切り崩される。自由意志は神話であり、幻想になる。デジタル独裁国家は自由と平等をなくし、人々は存在意義を喪失するかもしれない。
4、平等(史上最も不平等な社会)
生物学的カーストで21世紀は史上最も不平等の社会になる。平等は共産主義と自由主義から生まれた。しかし現在、富裕者の上位1000人の資産を合わせると貧困者の下位40億人の資産合計を上回る。そして2100年までに1%の最富裕層は、世界の富の大半ばかりでなく、世界の美と創造性と健康の大半をも手に入れることになる。もしそれを防ぎたいなら、データの所有権を統制することが必要になる。
5、コミュニティ(オンラインとオフライン)
コミュニティの崩壊が、薬物依存症や全体主義体制を産んだ。そしてザッカーバーグはフェイスブックがコミュニテイ再建事業の先頭に立つと宣言した。しかしオンラインの時間を減らし、友人たちとのオフラインでの有意義な活動時間を増やすようなツールを誰が開発するのだろうか。
6、文明(文明の衝突は兄弟喧嘩)
「西洋文明」と「イスラム文明」の衝突などない。チンパンジーはオスとメスが混ざった集団で暮らす。ゴリラは一頭の支配的なオスが複数のメスのハーレムを作って暮らす。これは数十万年変わらない。人間は違う。同じ集団、社会制度が、数世紀以上存続することはめったにない。たとえばどの国も似たり寄ったりの国歌を持っている。たとえばISの戦闘員が攻め入った地元の銀行でアメリカドルを見つけても燃やさない。将来どんな変化が待ち受けているにせよ、異質の文明の衝突ではなく、単一の文明内の兄弟喧嘩と考えた方がいい。
7、ナショナリズム(良きナショナリストと良きグローバリスト)
イギリス、ロシア、アメリカ、ナショナリズムに基づく孤立が支持を集めているが、人類はグローバルな協力を通してしか解決できない3つの共通の難題に直面している。1)核の問題・・・イギリスはブレクジットで、EUの世界平和への貢献を無視した。2)生態系への難題・・・まず人類は化石燃料への依存を断ち切らなくてなならない。次にクリーン・ミート(肉)。1キロのジャガイモには287リットルの真水、1キロの牛肉には1万5000リットルの真水が必要である。ハンバーガーは栽培すべきである。3)テクノロジーの難題・・・ITとバイオテクノロジーの融合でホモ・サピエンスの時代は終わる。有機体生命から非有機体生命の時代に変わる。その時宇宙からの観点が必要になる。サピエンスかサイボーグかの時代にナショナリズムは無能である。グローバリズムと愛国心との間にはなんの矛盾もない。良きナショナリストは今や、良きブローバリストであるべきだ。