人類は宗教でホモ・サピエンスになったが、これからは一神教ではだめ、新しい宗教が必要になる。以下は、『21 Lessons』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。

TED TIMES 2020-18 「21レッスンズ-2」 4/12 編集長 大沢達男

 

人類は宗教でホモ・サピエンスになったが、これからは一神教ではだめ、新しい宗教が必要になる。以下は、『21 Lessons』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。

 

8、宗教(宗教は生活には欠かせない)

宗教は農業に欠かせなかった。種蒔きや収穫を決め、降水を確保し害虫を防いだ。宗教は病気も治した。病人を癒し、目の不自由な人が見えるようにした。しかしそれは文明にとって変わられた。

しかし、宗教は経済政策にも答えを出せない。キリスト教イスラム教のヒンドゥー教の経済学はありえない。そして宗教は重要な政治論議に貢献できない。

21世紀の宗教は、雨をもたらさず病気を治さず爆弾を製造しないが、私たちは誰か、彼らとは誰か、誰を治療すべきか、誰を攻撃すべきか、を決める。宗教は日常生活を美で満たし、人々がより優しく、より慈悲深く振舞うことを奨励する。

近代の世界で宗教が重大な力を持っていることを証明したのは日本である。日本は国家神道を至上の原理として天皇崇拝を神聖化した。そして日本は息を飲むような速さで近代化し、国家に対する忠誠心を生んだ。

宗教は、いつでも最新テクノロジーを使った装置や最も高度な現代の機関と、結びつけることができる。グローバルな問題をナショナリズムと既存の宗教は解決できない。

9、移民(日本は難民や移民を引き受けるのが無理な国かもしれない。許されないことではあるが。)

移民の論点。1)「移民を入国させる」。トルコは国境を越えてくるシリアの難民を許す道徳的義務がある。しかしそこからスェーデンに行くなら、スェーデンは受け入れる義務はない。多くの国が移民に目をつぶる。安い労働力が欲しいから。しかし外国人の身分を法律で認めることはしない。

2)「移民はその国の基本的規範と価値観を尊重する」。移民は寛容か不寛容か。フランスあるいはデンマークに独自の規範や価値観はあるのか。そもそもヨーロッパ人とは何者か。他文化の制度ではないか。

3)「十分に同化したらその国の成員になる」。個人的な時間と共同体の時間の物差しの隔たりがある。個人では40年は永遠。文明は数世紀かけて同化している。4)さらなる論点。100万人の移民が法律に従っても、100人のテロが受入国を攻撃したら。移民3世が1000回通りを歩いても淫(みだ)らなことを言われなくても、時折人種差別者に罵(ののし)られたら。

5)文化差別は人種差別よりあるかに科学的基盤がある。

6)結論。移民に賛成、反対。二つの正当な見方の議論。民主的な手順で決着つけるべき。ただ一つの例外。死を免れるために、隣国から逃げてくる難民には国境を開く義務がある。

10、テロ(テロを恐るな)

毎年テロリストが殺害する人は、全世界で2万5000人、それに対して交通事故は125万人、糖尿病と高血糖値で350万人、大気汚染で700万人で死亡する。テロは恐れが主役で、実際の力はない。中世には公共の領域は政治的暴力に満ちていた。貴族、町、ギルド、教会、修道院、暴力を使う能力がないものは、政治的な発言権を持たなかった。近代に入ると、中央集権国家が政治的暴力を減らし、根絶する。現代国家は政治的暴力を防ぐのに成功したゆえに、テロに対して脆弱になっている。どう対処すべきか。1)政府はテロに対して秘密活動を重点にする。2)マスコミはヒステリーを避ける。3)私たちはテロに対する恐怖心を捨てる。つまり、私たちが過剰に反応すればテロは成功、冷静に反応すれば、テロは失敗に終わる。

11、戦争(戦争による成功は絶滅危惧種のように珍しい。だからといって不可能ではない)

1914年世界中のエリート層は戦争に大きな魅力を感じていた。経済が繁栄し、政治権力は伸ばせた。2018年戦争は絶滅危惧種のように珍しい。21世紀に主要国が行なった侵略で唯一成功したのはロシアのクリミア征服。「いちばん弱い子供をいじめろ。だが、やりすぎるな。先生が割って入ってこないように」。ロシアは学校のいじめっ子の原理を守ってきた。ロシアは攻撃していない、防御を補強してきただけだ。アメリカとNATOは、約束に反して東ヨーロッパへ、さらには旧ソ連の一部にまで、勢力を広げた。そのうえ中東におけるロシアの権益を無視し、セルビアイラクに侵攻した。ロシアの人口は1億5000万人GDPは4兆ドル、アメリカ(3億2500万人、GDP19兆ドル)、EU(5億人、GDP21兆ドル)。ロシアは戦えない。しかもトラクター、トラック、戦車、大陸間ミサイルの時代ではない。ITでもバイオテクノロジーでもロシアは秀でていない。さらにプーチンには普遍的なイデオロギーがない。キューバ人にも、ヴェトナム人にも、フランスの知識人にも提供できるものがない。戦争は成功しない。だからといって戦争を不可能と決めつけれない。人間は愚かだ。