神を信じない選択もある。必要な価値観がある世俗主義は、自らの無知を認める。以下は、『21 Lessons』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。

TED TIMES 2020-19 「21レッスンズ-3」 4/14 編集長 大沢達男

 

神を信じない選択もある。必要な価値観がある世俗主義は、自らの無知を認める。以下は、『21 Lessons』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。

 

12、謙虚さ(ユダヤ教、3大宗教への疑問)

だれもが、自分が世界の中心で、自分の文化が人類史の要だと信じる。ギリシャ人は歴史はホメロスソフォクレスプラトンから始まると信じている。中国人は黄帝と、夏と商(殷)の両王朝から始まると信じる。ヒンドゥー教徒はロケットと飛行機を発明したは導師パロドワジャ、阿闍梨カナダは原子論の父だと言う。イスラム教徒は預言者ムハンムド以前の歴史は無意味だと言う。アステカ族は生贄の儀式がなければ、太陽は昇らず、全宇宙が崩壊すると信じていた。

ユダヤ教は人類史のスーパースターだと教育されている。例えば、「3大宗教」という言葉がある。キリスト教徒23億人、イスラム教徒18億人、ユダヤ教徒1000万人。そこには、神道5000万人、シーク教徒2500万人、ヒンドゥー教徒11億人、仏教徒5億人は含まれていない。イスラエル人は世界の宗教はユダヤ教から生まれたという、根拠のない傲慢な考え方をしている。石器時代の人類はアブラハムより何万年も前から道徳律を持っていた。そればかりか、道徳律は人類の登場の何百万年も先行する。オオカミの子供たちはじゃれ合うときに強く噛みすぎない。チンパンジーのオスは弱いメスがバナナを見つけても横取りしない。積極的に弱者を助ける。ユダヤ教キリスト教には問題が多い。まず大量虐殺を宗教的義務として提示している。次に人種差別、女性と同性愛者への嫌悪がある。さらにユダヤ教は動物を生贄にしたり、人間の集団を計画的に根絶やしすることを命じている。一神教ほど良くない考えは人類史上例がない。

13、宗教(神を信じないという有力な選択)

私たちは自分の無知に「神」というたいそうな名前をつける。神の根本的な特徴は私たちがそれについて具体的なことは何一つ言えない点である。道徳とは「神の命令に従うこと」ではない。「苦しみを減らすこと」だ。自分本位の生活を送っていたら、惨めになることはほぼ確実だ。だから幸せになるためには、少なくとも家族や友人やコミュニティの仲間を気遣う必要がある。どんな神も信じないというのも有力な選択だ。

14、世俗主義(あなたの宗教、イデオロギー、世界観は何を誤解していたか)

世俗主義は宗教の否定ではない。首尾一貫した価値基準がある。道徳と英知は全人類が自然に受け継いできたものと考える。1)真実。信心ではない。観察と証拠に基づいたもの。2)思いやり。神に従うことではない。苦しみを深く理解すること。3)平等。階層制はすべて疑いの目で見る。4)自由。考えたり、研究したり、実験したりする自由がなければ、真実や苦しみから脱する方法を探し求めることはできない。5)勇気。偏見や暴虐な政権と戦うこと。無知を認めて新しい証拠を探すこと。6)責任。崇高なる力の存在を認めない。生身の人間である私たちが一切の責任を負うこと。キリスト教と先住文化の迫害、アイルランドと北アメリカでのプロテスタントの振る舞い、マルクス主義と強制労働収容所、科学的事業とグローバルな生態系の不安定、遺伝学とナチスの進化論・・・どの宗教、イデオロギー、信条にも影はある。世俗主義の科学は自分の影の面を恐れず、進んで自分の誤り盲点を認める。無謬性を主張するより無知を認める人を信頼する。

15、無知(信用できない合理的な個人)

自由主義の思想は合理的な個人に絶大な信頼を置いてきた。しかし「合理的な個人」は熱狂的性差別主義の幻想であり、上流階級の白人男性の自立性と権力を賛美している。ホモ・サピエンスが他のあらゆる動物を凌ぎ、地球の主人公になれたのは、個人の合理性ではなく、大きな集団でいっしょに考えるという、比類のない能力のおかげだった。世界は今日よりなおさら複雑

になる。最善の行動は、私たち一人ひとりが自らの無知を認めることだ。

16、正義(知らなければ正義は見つからない)

すべてが互いにつながっている世界の道徳的義務は、知る義務である。近代以降の歴史上で最大級の犯罪は無知と無関心から生まれている。イギリスの淑女たちはロンドンの証券取引所で株を買い、太平洋の奴隷貿易に出資し、4時のお茶には地獄のようなプランテーションで生産された雪のような白い角砂糖を使った。1930年代のドイツでは郵便局長が毎日真っ先に出勤し、誰よりも遅くまで献身的に働いた。しかし彼が配達していたのは、人種差別的なプロパガンダ、徴兵命令書、ナチス親衛隊支部への命令書だった。数百万のシリア人の関係、5億のヨーロッパ人の関係や、真実を理解し正義を見つける人間の探究は失敗に終わるのか。