TED TIMES 2020-20 「21レッスンズ-4」 4/15 編集長 大沢達男
「苦しみは私から」が瞑想でわかる。アルゴリズムが決める前に、私を知ること。以下は、『21 Lessons』（ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社）の要約。
17、ポスト・トゥルース（フェイク・ニュースは聖書に始まる）
嘘と作り事ばかりの「ポスト・トゥルース」の時代に生きている。キリスト教徒は聖書の記述が真実かどうかを決して問わない。イスラム教徒はクルアーンを疑いなく信じている。
ヒトラーは書いた。プロパガンダとは要点を絞り込み、それをひたすら繰り返す。宗教やイデオロギーだけではない。企業も虚構とフェイクニュースに頼っている。コカ・コーラといえば人は若く健康な人がスポーツを楽しんでいるシーンを思い出す。しかしコカ・コーラを飲めば肥満と糖尿病の危険が高まるだけだ。
人々を団結させる点では偽りも物語のほうが真実より本質的な強みを持っている。聖典と貨幣の違いは一見したよりもずっと小さい。国家や宗教はステロイド剤を使っているサッカークラブのようなものだ。人間という種は真実より力を好む。だからといって、何もかもがフェイクニュース、真面目なジャーナリズムとプロパガンダとに違いはない、というのではない。高品質な食品、衣料、自動車にお金を払えるなら、高品質な情報を買う必要がある。科学文献を読む努力をすることだ。
18、SF（自己から逃げ出すことができるか）
人間が世界を支配しているのは、他の動物より協力できるからで、協力できるのは虚構を信ずることができるからだ。現代の神話に対する信仰はハリウッドやポップス業界の芸術的創作物を基盤にしている。21世紀初頭の最も重要な芸術ジャンルはSFである。現代のSF映画には不満がある。比べて20世紀のSF書は優れている。たとえば『すばらしい新世界』（オルダス・ハクスレー）がある。恐れと暴力ではなく、愛と快感で人を制御できることを示した。『すばらしい新世界』には無上の幸福感を即座に与えてくれる「ソーマ（薬）」があった。21世紀のSFは自分自身（マトリックス）から逃げ出すことを扱っていない。
19、教育（自分自身を知るむずかしさ）
2050年に世界がどうなっているか、誰もわからない。今日子供たちが学ぶ多くは、時代遅れになっている可能性が高い。学校は専門的な技能ではなく、汎用性のある生活技能を重視すべきだという。
しかし「人間であること」の意味も変わる。身体構造、認知機能までもが消え、データビットの中に紛れてしまう。バイオテクノロジーと機械学習により自分の心に従うのは危険になる。さまざまなアルゴリズムがあなたをじっと眺めている。
20、意味（ブッダは人生に意味はなく意味を生み出す必要もないという）
私は何者か？人生で何をすべきか？人生の意味とは何か？人気抜群の物語がある。生きとし生けるものは永遠のサイクルの一部である。どの生き物にも果たすべき機能があり、良い人生とはその機能を果たすことだ。ヒンドゥー教では、壮大な宇宙のサイクルの中で生き物は「ダルマ」、義務があると教える。ダルマを実現できれば心の平穏を得ら、あらゆる疑いから解放される。物語はどれも不完全だが、ふたつの条件をかなえれば人生に意味を与えることができる。私に何かの役割はあるか。物語は私の地平の果てまで続いているか。物語は虚構だが、現実として感じられるようにしてくれるのが、儀式だ。ブドウ酒はキリストの血、パンはキリストの肉。司祭はラテン語で「ホク・エスト・コルプス！」（これは私の身体だ！）と声高に言う。農民たちはこれを「ホーカス・ポーカス！」に変え呪文になった。儀式は犠牲を伴えば強力になる。聖職者は痛みを伴う犠牲を払わせればいい。そうすれば誰も逃れられない。人間の意味の探究は犠牲の連続で終わる。自由主義は宇宙のドラマを否定する。決まった運命もダルマもない。私が宇宙に意味を与える。それが私の使命だ。「彼らの犠牲が我々の永遠なる国家の純粋さを救うだろう」。政治家が、犠牲、永遠、純粋、救済の四つの言葉を使った注意しよう。世界や人生の意味は物語ではない。
21、瞑想（瞑想は魔法でも万能でもないが必要だ）
瞑想でわかったこと、私は自分の心について無知であり、心を制御することができないこと。読書も大学も役に立たない。苦しみの源泉は自分の心のパターン。苦しみは世界の客観的な状況ではなく、心によって生み出された精神的な反応。瞑想は魔法の解決策ではない。世の中を変えるには行動と団結が必要である。とはいえ恐れ、偏見、コンプレックスへの対処法は必要である。セラピー、芸術、スポーツ・・・瞑想は万能薬ではない、道具箱に追加すべき貴重な道具だ。私が何者かは、私に代わってアルゴリズムが決めるようなる。その前に自分の心を理解する必要がある。
