杉本博司、あなたはヒッピーで、宇宙人、そして駄洒落のオッサンだ。

TED TIMES 2021-19「江ノ浦測候所」 5/7 編集長 大沢達男

           

杉本博司、あなたはヒッピーで、宇宙人、そして駄洒落のオッサンだ。

 

1、庭園

東海道線根府川駅、まあ私には訳のわからない駅で降りて、バスに揺られて20分の場所に、江ノ浦測候所はありました。

軽い物見遊山のつもりで出掛けたのですが、現場に到着して、「おっ?やべー」、いきなり圧倒されます。

左手に三浦半島、右手に伊豆半島(見えませんが)、相模湾を見下ろす、山の上です。

江ノ浦測候所(なんでそう呼ぶの?。まあ庭園です)は、二本の線を軸に設計されています。

夏至の日の出(Sunrize on summer solstice)の夏至遥拝ギャラリーは、長さ100メートルで大理石とガラスに覆われ、海に向かって飛び出しています。

冬至の日の出(Sunrise on winter solstice)の冬至遥拝隧道も、鉄製の洞窟が海に向かって伸び、山を飛び出し宙で浮かんでいます。

なぜ夏至冬至なのか。夏至とは命の終焉の始まりで、冬至とは命の誕生の始まりだからです。

あと建造物と呼べるのは、ガラスの舞台と円形劇場、茶室、門、神社ぐらいで、残りは庭園内に点在する小さな石像、敷石です。

五月晴れでした。写真撮影はOKでしたので、会場に入った時から、お気に入りの一眼レフのカメラを首にぶら下げ、撮る気、満々でした。

ところが2~3回シャッターを押して、気がつきました。「おい、おい、写真にならネー」、「撮れないじゃん」。

現場に到着したときのインパクトを写真にできない。絵葉書にもならない記念写真しか撮れない、ことに気がつきました。

2、骨董

まず最初のインパクトは、小田原文化財団のロゴが入った白い布がかかっている、瓦葺(かわらぶき)の門です。

「オッ!オッ!」と度肝を抜かれます。当たり前です。ニセモノではない。明月門(めいげつもん)、室町時代の物をそのまま持ってきました。

そのときはホンモノと知らなかったのですが、根府川のあと、熱海のビーチで遊び、パンフレットを読んで、初めてわかります。

さりげないインパクトもありました。お稲荷さんです。「片浦稲荷大明神」。なんだか意味もわからず、丁重にお参りしました。これもパンフレットで、その由来を知り驚きます。

18世紀江戸時代、渋谷村(東京・渋谷)のお稲荷さんが、ここに引っ越してきたのです。「しっかりお祈りしてよかった!!」。

そればかりではありません。江ノ浦測候所の庭園内にある、石造の鳥居、石仏、石造りの道標、敷石、すべてホンモノです。

古墳時代平安時代室町時代鎌倉時代、江戸時代・・・まあ言うなれば、骨董の集まりでできた、庭園です。

ニセモノは何一つない。古代人の霊が集まっていました。「何かが違う」、「迫力が違う」の直感は、事実によって裏付けられました。

3、時空

杉本博司はあるとき、森の中の水の一滴が、泉になり、せせらぎになり、大河となり、海に注ぐことを知り、海の写真を撮り始めます。

古代から現代まで歴史を貫く自分、日本に生まれ米国で生活し宇宙を漂う自分を、表現するためにです。

杉本博司は、江ノ浦測候所を、歴史との一体感と宇宙との一体感でデザインしました。ですから、撮れる写真は2枚しかありません。

一つは水平線に浮かぶガラスの舞台上の人物、もう一つは、夏至冬至に光に貫かれるギャラリーと隧道。

それが私の出した、結論。帰りに、熱海で杉本博司がお気に入りのワインバーに寄り、酔っ払って書いた「禅語不覚」の書を見ながら、杉本の造形の深さを広さを思いました。