クリエーティブ・ビジネス塾32「LIBOR」(2012.8.22)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、LIBOR
オリンピックよりも、ウインブルドンよりも、もっと重要なニュースがロンドンから送られて来ています。日本経済新聞が何度も取り上げ、何度も解説を加えている。それが「LIBOR」です。
LIBORは、London Inter-Bank Offered Rate(ロンドン銀行間取引金利)で、ライボーと読みます。LIBORは、ロンドンの主要銀行の申告で毎日変わるドルや円などが取引される通貨市場の短期金利で、企業向け融資、住宅ローン、デリバティブ(金融派生商品)などにも使われます。
このLIBORが英国の名門、バークレイズ銀行によって不正に操作されていることが明らかになりました。最高経営責任者は辞任し、5950ポンド(70億円)の課徴金が課せられました。
なぜバークレイズ銀行は不正をしたのか。金融機関にはアニマル・スピリット(血気)があり、収益を追うからです(日経8/7)。たとえばデリバティブのスワップでは、LIBORのわずかな数値の変動で、巨額の利益が動き、自らの顧客を富ませることができます。
注1。デリバティブとは、債券、株式、外国為替などの金融商品取引以外の金融派生商品=Derivatives。注2。スワップ(Swap)とは、たとえば固定金利型の住宅ローン。金利は借り入れ時のスワップ金利。企業は「変動金利を受け取り、固定金利を支払う」金利スワップ取引をする。
2、政策金利
金利といえば誰もが知っている公定歩合。この公定歩合が消えたのをご存知ですか。
かつて公定歩合は日本銀行が決めていた政策金利で、日本経済を左右する重要なものでした。
「公定歩合はお蔵入りさせた。金融政策上の主要な手段はコール市場の調整だ」。2006年7月14日当時の福井俊彦日銀総裁はこう宣言しました(前掲書p.164)。公定歩合は政策金利の舞台から消えていきました。
ではコール市場とは何か。
金融機関が資金を仕入れる短期金融市場です。日銀は「無担保コール翌日物金利」を政策金利の誘導目標にしています。「翌日物(オーバーナイト)」とは、資金を今日借りて明日返すものです。
コール市場は新しいものではありません。1901年(明治34年)の金融恐慌の反省で、金融機関が互いに資金繰りを調整し合うために自然発生した日本最古の短期金融取引です(前掲書p.102)。
かつて「公定歩合」の役割を、現在では「無担保コール翌日物金利」が果たしています。
3、金融という商売
日本には金儲けを軽蔑する「士農工商」以来の支配階級の思想があります。それが金融への無知を正義にしています。さらにはモノづくりが経済の基本であり、金を回して利益を得るのは邪道だという清貧の思想があります。
しかし現実はどうなのでしょうか。2010年の世界の金融資産総額は212兆ドル、世界の国内総生産(GDP)の3.6倍もあります(マッキンゼー調べ。日経8/6)。世界経済は、モノ経済の3.6倍のカネ経済で動いています。
また日本には江戸時代以来のデリバティブの伝統があります。1730年に開所された大阪・堂島米会所では、デリバティブのなかで最も一般的といわれる先物取引が行われています。
この現実に目を閉じ、国を閉ざし、無視するわけにはいきません。LIBOR、デリバティブ、コール市場・・・何度学んでもピンと来ない金融のことを学ぶ理由がここにあります。「LIBOR 不正にきしむ巨大金融」(日経8/5~8/7)のエンディングは印象的です。
1)市場主義に代わる経済の仕組みはない。
2)(不正をしても)利益を追うアニマル・スピリット(血気)は市場の活力源である。
3)いま私たちは、(不正という)歴史的な課題に直面している。
結論は簡単です。
「買い手よし、売り手よし、世間よし」の三方よし、「商売忘れてもお勤め忘れるな」の宗教心、近江商人の高いモラルに学ぶことではないでしょうか。