金融危機を学習しましょう。

 コンテンツ・ビジネス塾「金融危機」(2008-40) 11/5塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

日経が、経済教室「金融危機と世界」を、9回にわたり(10/10~10/24)掲載しました。経済学のトップランナーによる金融危機の分析と処方箋です。すべてを紹介できませんが、主要なものをピックアップしました。まずサププライムローンの本質は何か、つぎに危機の主役となった投資銀行に未来はあるのか、そして危機は恐慌につながっていくのか、以上の3点について学習します。
1、サブプライムローンの失敗(酒井良清神奈川大学教授)。
金融取引には、市場取引と相対取引(銀行取引)があります。市場取引とは、株式や債券の取引。市場取引では対称情報といって、取引者が金融商品について情報を共有していることを前提にしています。片方しか知ることのできない情報で取引すれば、インサイダー取引として罰せられます。
相対取引(銀行取引)とは、銀行の取引。この取引では非対称情報といって、取引者が情報を共有しているわけではありません。
サブプライムローンははじめ、米国の低所得者への住宅ローン、つまり相対取引として出発します。しかし次の段階で貸し手の金融機関は、住宅ローン債券を他の債券と組みあせて新たな証券化商品を作り販売し始めます。つまり新たな商品で市場取引をするようになります。新技術の金融工学相対取引と市場取引を融合させてしまいました。効率化の結果、情報を共有すべき市場取引で、リスクが投資家に伝わっていかなくなります。
90年代日本の不良債権は、相対取引(銀行取引)の金融危機の問題です。公的資金の投入で危機を乗り切ることができました。87年のブラックマンデーは、市場取引による金融危機の問題です。はじめ中央銀行の資金供給で事態は収拾されましたが、米連邦準備制度理事会FRB)は「警告すれども介入せず」の方針を取るようになります。
相対取引、市場取引、それぞれの問題に対する処方箋はあります。サブプライムでは、両者が融合している、そこに今回の金融危機のむずかしさがあると、酒井教授は指摘します。
2、投資銀行の失敗(御立尚資ボストン・コンサルティング・グループ日本代表)。
米国の銀行には商業銀行と投資銀行があります。投資銀行には、エージェント型ビジネス(企業顧客へのサービスを通じての実体経済への支援)とプリンシパル型ビジネス(リスクテークによる利潤追求)の、二つの側面があります。
エージェントビジネスとは、債券・株式の発行支援と販売の請負、M&A(合併・買収)の助言業務などで、投資銀行の伝統的な収益の根幹をなしてきたものです。プリンシパルビジネスとは、実体経済の動きとかけ離れた領域での大きなリスクをとるビジネスです。金融技術のイノベーションによる証券化商品の発掘です。このプリンシパルビジネスにより投資銀行上位5社は、90年以降先進国のGDP国内総生産)が2倍強になる中で、その資産を13倍以上に伸ばしたのです。そして今年、3社が破綻もしくは吸収合併、2社が銀行の持ち株会社への業態変更の結末を迎えることになります。
御立氏は、投資銀行はなくならない、実体経済の成長支援としての投資銀行の「業務」の存在価値はまだまだある、投資銀行は本来のエージェントビジネスへ戻っていく、と結んでいます。
3、政治の失敗(竹中平蔵日本経済研究センター特別顧問)。
問題はサブプライムではありません。金融危機に政府が対応を誤ることが、最大の危機になるのです。9月末の金融安定化法案は米下院で否決されました。世界市場の不安は広まりました。「市場の失敗」に「政治の失敗」が重なったのが危機の本質です。
1)政策対応の遅れが事態を深刻化させる。2)公的資金投入だけでは問題は解決できない。3)
経済金融に理解のない政治が常に政策の足を引っぱる。以上が日本への教訓です。さらに竹中教授は、改革を先送りしてはならない、景気対策のバラマキで問題は解決しないと付け加えます。
最後に、林敏彦放送大学教授の「大恐慌」に対する見解を紹介します。米国の大恐慌は1929年の株価暴落が原因ではない。FRB米連邦準備制度理事会日本銀行)の未熟さ、連邦政府の経済政策に限界があった。つまり今回の金融危機は、「大恐慌」前夜ではない、のです。
結論。金が金を生む、うまい話はありません。経営のしっかりした会社の株価が上がるのです。