『永遠の0』は、平和と民主主義の戦後思想の否定です。

クリエーティブ・ビジネス塾2「右傾化」(2013.1.8)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、『永遠の0(ゼロ)』
永遠の0(ゼロ)』(百田尚樹 講談社文庫)は傑作です。「0(ゼロ)」とは零戦のことで、海軍のパイロットが主人公の話ですが、ありふれた戦記物ではありません。
まず、天皇陛下のために若者たちが惜しげもなく命を投げ出して行った日本軍の「特攻精神」に疑問符を投げかけます。つぎに伝説の戦闘機零戦への疑問です。零戦は数々のスーパー性能を持っていましたが、なかでも航続距離は8時間にも及ぶものでした。でも、いつ敵が来るかも知れない緊張状態を、人間は8時間も持続できるのだろうか。マン=マシン・システムとして零戦は優れた設計といえるのだろうか。そして新聞批判をします。日清戦争以来、日本の快進撃で国民をあおる「戦争賛美の報道」で発行部数を伸ばしてきた新聞が、戦後は「平和と民主主義」を商売道具にするようになった、この変節への疑問です。
「あなたの新聞社は戦後変節して人気を勝ち取った。戦前のすべてを否定して、大衆に迎合した。そして愛国心を奪った」(『永遠の0』P.418~419)
作者の百田尚樹は、ボクシングのファイティング原田を描いた『「黄金のバンタム」を破った男』でも、事実をもとに語るドキュメンタリータッチで、読者を魅了しました。ここでも戦闘、兵器、戦闘機、戦史に忠実に事実で語り、ドラマを構築し読者を感動に導きます。そしてこの小説を傑作にしているのは、「平和と民主主義」の新聞批判です。
2、言論統制
なぜ新聞は変節をしたのか。きっかけは占領軍の言論統制です。
「占領軍の言論統制」は知られていません。なぜか?まず言論統制の主役を演じたCCD(民間検閲支隊)が6000人もの構成員を持ちながらその存在が秘密にされたからです。つぎに日本人の協力者が1万人以上もいたにも拘らず、だれもその事実を公表していないからです。彼らはこの闇の組織に属したあとに自治体の首長、会社役員、大学教授として活躍しています。そして占領軍の言論統制についての研究書がないからです。私たちは、唯一『閉された言語空間』(江藤淳 文春文庫)で知るのみです。
占領軍は言論統制の目的はなにか?「あらゆる日本人は『潜在的な敵』であり(中略)日本という国は本来『邪悪』な国である」(前掲P.161)から、「日本人のアイデンティティと自己の歴史に対する信頼を(中略)崩壊させ」(同P.344)、「戦争についての罪悪感を日本人の心に植えつける」(同P.261)ためにでした。
言論統制の表面に出た成果が、『太平洋戦争史』、『日本国憲法』、東京裁判です。
『太平洋戦争史』は、占領軍の民間情報教育局(CI&E)が企画しました。東京への無差別爆撃、広島・長崎への原爆投下は、軍国主義者がいたからと説明されました。戦後世代は、『太平洋戦争史』で教育されました。「大東亜戦争」を「太平洋戦争」と言い換えたのも占領軍です。
日本国憲法』は、SCAP(連合国最高司令部)によって起草され、その事実は秘密にされました。
東京裁判極東国際軍事裁判)批判は許されませんでした。東条英機を弁護した清瀬一郎は、勝者が敗者を裁く法廷は世界の歴史上前例を見ない、と述べました。
検閲は何百万通の手紙を蒸気であぶり、開封し検閲し、元に戻すという手の込んだものでした。
江藤の著作が出版されたのは平成、文庫本は平成5年です。戦後世代のマインドコントロールは、2世代から3世代になろうとしていました。
3、日本の滅亡
自殺、少子、未婚で、日本の人口は減少し続け、やがて日本は地図からなくなります。『太平洋戦争史』、『日本国憲法』、東京裁判で、占領軍が考えた「邪悪な国」は、世界から姿を消します。
しかし、日本復活への道は険しい。中国と韓国は、日本が右傾化していると警戒しています。
右翼とは、保守、国粋、ファッシズム。特攻と無謀な戦略を批判する『永遠の0』は、右翼でしょうか。私たちはこの小説から出発し、占領軍のマインドコントロールから脱出しなければなりません。