「ウォー・ギルド」(WGIP=war guild information program)は、GHQの言論弾圧の一部でしかない。

THE TED TIMES 2022-22「加茂道子」 6/22 編集長 大沢達男

 

「ウォー・ギルド」(WGIP=war guild information program)は、GHQ言論弾圧の一部でしかない。

 

1、賀茂道子

GHQは日本人の戦争観を変えたか 「ウォー・ギルド」をめぐる攻防』(賀茂道子 光文社文庫)は、久しぶりの本格的なGHQ研究で、期待を持たせました。

とくにCIE局長のケネス・ダイク(カーミット・リード・ダイク)や新聞課長のダニエル・インボデンは、先行研究の『閉ざされた言語空間』(江藤淳 文春文庫)や『GHQの検閲・諜報・宣伝工作』(山本武利 岩波現代新書)ではあまりクローズアップされない人物で、研究が大きく進んでいることを示していました。それもそのはずで、巻末の主要資料欄を見ると、江藤淳が限られた米国滞在時間のなかで決死的覚悟で手にした「米国立公文書館所蔵」や「メリーランド大学所蔵」の文書が、いまでは国立国会図書館憲政資料室にマイクロフィッシュ(フィルム化、電子化)としてあり簡単に閲覧できるからです。時代は変わりました。加茂道子に続く研究者が出てくることを期待せずにいられません。

2、国際感覚

続く研究者に期待するというのは加茂通子の国際感覚、センスのなさに疑問を持つからです。

1)「(GHQの検閲による)言語空間の閉鎖を言うのであるなら、戦前の方がよほど強力であった」(前掲 p.18)。

日本人による日本人の言論弾圧と米国人のよる日本人の言論弾圧、戦前の日本政府と戦後の占領軍のよる言論弾圧を比べることなんかできません。加茂通子さん!あなたはどこの国の人ですか?

2)「言論弾圧」か。「ウォー・ギルド」か。本のダブタイトルあるように「ウォー・ギルド」が加茂通子著作のメーンテーマです。

しかし勘違いしないで欲しい。「ウォー・ギルド・インフォメーション・プログラム(WGIP)」とは、GHQ言論弾圧、検閲のひとつのメニューであって、言論弾圧の全てではありません。

CCD(民間検閲支隊)は影の存在です。検閲はないが前提で、秘密裏に検閲をしました。高学歴、英語ができるなどの日本の知識人が、高収入に誘われGHQに雇用され、新聞・雑誌の検閲に従事しました。しかしだれもその裏切り行為に加担したことを明らかにしていません。

CIE(民間情報教育局)は表の組織です。新聞、ラジオ、映画を指導監督しました。WGIPはその一部です。

3)「スミス(筆者注:ブラッドフォード・スミス 米戦時情報局)は『南京虐殺』に代表される日本軍の残虐行為に対して激しい怒りを持つとともに、なぜあのような残虐な行為を犯すのか疑問を抱いていた」(p.83)。

現実にあったかどうか、議論の多い「南京虐殺」をためらわずに取り上げる、賀茂道子のセンスを疑います。

そして「なぜ日本人は残虐な行為をするのか」の疑問がスミスを「ウォー・ギルド・プログラム」に推し進める力になったという。完全な人種偏見です。ここには『菊と刀』(ルース・ベネディクト=米戦時情報局員)以来、占領政策の基調になった日本人蔑視があります。スミスたちの米国人は米大陸に先住していたインディアンをどうしましたか。黒人奴隷を買って米大陸に連れてきてなにをしましたか。

3、リベラリズム

「社会というものは個人個人から出来上がっている。(中略)その個人が幸福になれないでどうして明るい社会を作れるかとね」(CIE推奨のラジオドラマ『新しい道』から。前傾p.206)

この台詞を引用しながら賀茂道子は、個人主義と民主主義を主張をします。同じように加茂道子は、江藤の洗脳言説が、「保守論壇」で支持され続けてきたと主張します。

賀茂道子は、江藤淳が洗脳によって歴史記述のパラダイム転換がなされた、つまり「アジア解放のための自衛戦争」が「侵略戦争」になったと。江藤はそんなことを言っていません。

アメリカは日本で検閲をいかに準備していたか」と「アメリカは日本での検閲を実行したか」の2つしか、『閉ざされた言語空間』にはありません。

社会は個人から出来上がっている。個人は自由だ。そして個人は平等だ。共和制が人類の理想だ。こうしたリベラリズムの原理に疑問を提出することが、今の時代のセンスです。

キリスト教徒の西欧近代理性が生み出した「白人帝国主義」や「リベラル帝国主義」はもはや通用しません。