クリエーティブ・ビジネス塾26「コピペ犯罪」(2014.6.25)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、史上最大の捏造(ねつぞう=事実でないことを事実のようにこしらえて言うこと)
それは2014年の1月のことでした。世界的に権威がある英国の科学雑誌『ネイチャー』に、若い日本人女性の論文「STAP細胞」が発表され、世紀の大発見のニュースとして世界中に伝えられました。主役の小保方晴子(30)さんは、世紀のヒロインになり、マスコミの主役になりました。
あれから5ヶ月、論文は撤回されることになりました。世紀の大発見は史上最大の捏造事件に変わろうとしています。
小保方さんが所属する理化学研究所は、論文には画像の捏造や改ざん(コピペ=コピー&ペースト=盗んで貼付ける)があったと認定しました。論文の不備を指摘されても。小保方さんは「スタップ細胞はありまぁーす!」と主張しましたが、とうとう論文の撤回に応じることになりました。
STAP論文には、小保方晴子理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(CDB)研究ユニットリーダー、笹井良樹CDB副センター長、丹羽仁史CDBプロジェクトリーダー、若山照彦山梨大教授、チャールズ・バカンティ米ハーバード大学教授の5人の主な著者がいましたが、その全員が論文撤回に同意しました。とくに若山教授は、研究室に保存してある細胞を分析した結果、STAP細胞の存在を否定する結果だったと報告しました(日経6/17)。あとは小保方さんも加わるであろう理化学研究所の再現実験でSTAP細胞の存在が証明される研究結果が待つだけですが、私たちにとって重要なのは「コピペ」、学習や学問の正しい方法や態度が問われていることです。
2、iPS細胞とSTAP細胞
STAP細胞って、なあーに?その答えは簡単です。植木をしたことがありますね。木の枝を折って地面に刺しておけば根が生えて木になります。ヤモリも同じです。シッポを切られてもまた生えてきます。人間もそうした能力を持つことができないか。素朴な夢への挑戦です。
人間は60兆個の細胞からできていますが、それはたった1つの細胞が分裂したものです。ひとつの細胞から、手ができ足になり、心臓が生まれ胃になり、爪が生え髪の毛になったものです。しかし逆への変化はできません。手に皮膚の細胞は心臓になれません。それを可能にしたのが、ノーベル賞に輝いた山中伸哉京大教授のiPS細胞です。iPSとは"induced pluripotent stem cells"、人工多能性細胞。つまり、時計の針を巻き戻し、何にでも変化できる可能性をもった細胞のことです。病んだ臓器を再生でき、老化した肌を若くする。治療の医学を根本から変える、とんでもない発見です。
STAP細胞は、iPS細胞をライバル視したものです。STAPとは、"Stimulus-Triggered Acquisition Pluripotency cells"、刺激惹起性多能性獲得細胞。つまり動物の細胞に「外敵刺激(ストレス)を与えて」、分化多能性を獲得させたものです。STAP細胞は魔法のように作れ、作成が簡単でガンにならない。iPS細胞より優れた万能細胞である、ことが売りでした(日経6/24)。
3、コピペ
研究不正は蔓延しています。医学論文の7割は再現不能、科学者の3割は何らかの不正をしています(「小保方捏造を生んだ科学界の病理」中山敬一九州大学教授 『文芸春秋』2014.8 p.99)。今回の事件の発端は、「11jigen」という名のネット上の匿名のレフリーによる、摘発が発端でした。中山教授は、「科学における捏造とは、一般社会における窃盗」、つまり泥棒であると、糾弾しています。しかしコピペ犯罪はこの10年でなくなると楽観しています。なぜか。実験用の人型ロバットが開発され、危険な実験も高い再現性をもって、作業ができるようになるからです。ロボットが完成すれば捏造はなくなるのです(前掲p.103)。
SF作家アイザック・アシモフのロボット工学3原則があります。1)ロボットは人間に危害を加えてはならない。2)1条に反しない限りロボットは人間の命令に従う。3)1条2条に反しない限りロボットは自らを守らなければならない。
私たちはロボットによって取り締まられ指導されるようになるのでしょうか。コピペは犯罪です。
その前に、私たちは正しいことをする、社会のためになることをする、人間としてのあたりまえのモラルを身につけなければなりません。正しくなければ進歩はできません。