クリエーティブ・ビジネス塾43「山中伸弥」(2012.10.30)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、「ジャマナカ」
2012年のノーベル生理学・医学賞に決まった山中伸弥京都大学教授(50)は、さわやかな先生です。ノーベル賞受賞の、何を考えているかわからない、ような学者ではありません。現在でこそ京都大学の教授ですが、経歴を聞くと決して近寄りがたいエリートではありません。
出身は神戸大学医学部。はじめ整形外科医を目指しますが、ほかの先生が20分で終える手術を2時間もかかり、仲間からヤマナカではなく「ジャマナカ」と呼ばれていました。またあるときは、実験用のマウス(ねずみ)の飼育を担当していました。ところがネズミの世話に手間取り、研究がはかどりませんでした。そこで同僚はヤマナカではなく、「ヤマチュー」と呼んでいました。
中高、大学の2年までは柔道、高校時代には2段を獲得しています。大学の3年からはラグビー、そして現在はジョギングを楽しみ、昼休みは鴨川辺りを走っています。楽しそうな先生ではありませんか。素晴らしいキャラの先生が世界の頂点に立つノーベル賞になったものです。
2、iPS細胞
1)イモリ
小川に住んでいる「イモリ」を知っていますか。イモリはシッポが切れても、再生します。元通りになる能力を持っています。植物も再生能力を持っています。枝を切って植えても木として成長します。
しかし人間はそうはいきません。足を膝下から失っても、また生えてることはありません。
人間の身体は60兆の細胞からできていますが、元はたったひとつの細胞でした。それが分裂して、血液に、脳に、心臓に、手に足になりました。ですからもし皮膚の細胞ひとつを取って、それを分裂する前の若い細胞に戻すことができたら、その細胞はさまざまな器官に育って行く可能性を持ったものになるはずです(『ニュートン』2008.6)。
2)タイムマシン
iPS細胞とは、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)です。たとえばあなたのどこかの細胞を採り、それに手を加えてまた若い頃のように、分裂して身体のさまざまな部分になるようになる能力を持つようにしました。人間にも再生能力を与えました。
2006年山中教授は、マウスの実験でiPS細胞に成功したと発表し、世界を興奮の渦に巻き込みます。「細胞の初期化(リプログラミング)」に成功した、細胞の時計の針を巻き戻せる「タイムマシン」であると、世界は驚きました。
3)再生治療
まずiPS細胞で、病気や事故で失った身体の機能を回復することができます。パーキンソン病、車イス生活の脊椎損傷、心筋梗塞がターゲットにあがっています。さらに創薬(新しい薬)の力になります。iPS細胞を使い薬を開発できます。そしてiPS細胞バンク。あらかじめ拒否反応が起きないようなさまざまなタイプのiPS細胞を作っておき、いざというときに治療に使うのです(日経10/9)。
3、ビジネス
iPS細胞でのノーベル賞は、山中教授とジョン・ガードン、ケンブリッジ大名誉教授に与えられました。iPS細胞を使った再生医療や創薬の実用化では激しい国際競争が始まっています。京都大学では日本だけでなく米国をはじめとするさまざまな国で特許権を取ることに成功していますが、ビジネス化の世界で決して日本が独走しているわけではありません(日経10/9)。
人はなぜ老化し死んで行くのか。それは細胞分裂にヘイフリック限界があるから、ある回数まで行くと細胞は分裂できなくなるから、という説があります。でも細胞が初期化できるなら、細胞分裂にも限界はなくなります。私たちは永遠の寿命を獲得するようになるのでしょうか。
いやそんな夢より、シワだらけの顔はイヤだ、いつまでもツヤツヤした肌でいたい、スキンヘッドはイヤだ、いつまでも豊かな黒髪でいたい、こちらの方が現実的で実現可能性がありそうです。きっとビューティーサロンにもiPS化粧品が登場してきます。
そして山中先生もいつまでも若々しく、さわやかに活躍されるのでしょう。