「生き方」と「逝き方」が問われている。

クリエーティブ・ビジネス塾30「逝き方」(2016.7.11)塾長・大沢達男

「『生き方』と『逝き方』が問われている」

1、生き方
健康オタクは時代のファッションです。豊かな社会の病気です。70年代のヒッピー世代はマクロバイオテッィク、90年代のロハス世代(Life-style of Health And Sustainability) はヴェジタリアン、そして2000年代のミレニアル世代はオーガニック。地球環境、エコロジーが意識され始めた70年代から、いつも時代の先頭は、様々な健康オタクが走ってきました。
2、メタボリックシンドローム
実は、健康オタクが個人の自由な価値観やオシャレな生き方ではなく、国の大方針になっています。
高齢化社会、ところが国は大きな財政赤字高齢化社会で医療費が増えれば国は沈没する。どうすれば国の沈没を避けることができるか。みんなが健康になればいい。では、どうするか。
「1に運動 2に食事 しっかり禁煙 最後にクスリ」です(『日本の医療制度改革がめざすもの』辻哲夫 時事通通信社)。国が作ったその理屈を説明します。
まず1、「不健康な生活習慣」にすべての原因があります。エネルギ−、食塩、脂肪を過剰に摂取していないか。運動不足ではないか。ストレス過剰、飲酒・喫煙をしていないか。
つぎに2、不健康な生活習慣が「メタボリックシンドローム内臓脂肪症候群)」の原因になり、肥満症、糖尿病、高血圧症、高脂症を起す。
そして3、メタボは「重症化・合併症」に進む。虚血性心疾患(心筋梗塞狭心症)、脳卒中脳出血脳梗塞)、糖尿病の合併症(人工透析、失明)になる。
さらに4、重症・合併症は「要介護状態」に。半身のマヒ、日常生活に支障がある認知症になる(p.13)。
国(厚生労働省)は、そのために「健康オタク」を、ふたつの方法で育成しています。ひとつは「ポピュレーションアプローチ」と呼ばれる住民啓発です。ふたつは「ハイリスクアプローチ」という、「健診・発見・治療・バック」という方法です。バックとは、上述の理屈の、4→3→2→1へとバックさせることです(p.35)。
もうひとつ大きな問題があります。健康オタクをいくら育成しても、死亡者数は確実に増えます。2005年に100万人を越えた死亡者数は2040年までに、170万人近くまで増えます。それに加えて日本は異常な国、病院で死亡する人が81パーセントもいます(米国は41%、オランダは35%)です。このままでは日本の病院は、医師不足、病床不足でパンクします。そこで国は、死は病院ではなく在宅で、在宅ケア、在宅治療の時代を切り拓こうとしています(在宅といっても、自宅がベストですが、ケアハウス、有料老人ホーム、グループホームなども含む)。そこで高齢者や要介護者の力になるのは、家族ばかりでなく、地域の見守り、地域の力ということになります。「高齢者にとっていちばん大切なことは日常性(中略)、自分の時間、自分の空間が持てるところに住むということが大切で、そこでいわば生きる力が生まれる」(p.82)からです。
でもこのストーリーには矛盾があります。初めは生活習慣病になる、自己管理すらできない人を主人公にしながら、ドラマの最後では同じ人間が、人と地域を守もる人道主義者として登場してくるのですから。
3、逝(い)き方
健康な生き方と逝き方は個人の価値観です。国がそれに口を出すのはおせっかいです。
まず小説の『楢山節考(ならやまぶしこう)』(深沢一郎)があります。 70歳を超えた老母が息子によって山の神様のもとに捨てられます。何百年も続いてきた村の風習で、何百何千の人がその運命にしたがってきました。若い世代のために、老母は潔く、この世から身を引く。物語は小説家によって激賞され、「人生永遠の書」としてベストセラーになり、映画(今村昌平監督)は1983年カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)を受賞しました。フィクションやドラマでない、母が死を選ぶ、その事実と真実が感動を与えました。
つぎに生活習慣病は「治らない」「治せない」「予防できない」「すぐには死なない」のが特徴です(『大往生したけりゃ医療とかかわるな』p.174~75中村仁一 幻冬社)。治そうと思わず上手に付き合うのです。
さらに「健診は百害あって一利なし」です(『医師に殺されない47の心得』 p.1近藤誠 アスコム)。健診は何の役にも立っていないが、証明されています。
ではどうして逝くか。1)救急車は呼ばない。2)延命治療をしない(人工呼吸器、点滴、チューブ栄養、昇圧剤、輸血、人工透析)。3)自分らしく人生を終わらせたい。幸せでしたと感謝する。
「断食往生」。つまり、飲まず食わず、夢うつつになって穏やかに、死んでいくのです。