クリエーティブ・ビジネス塾37「EV②」(2017.9.11)塾長・大沢達男
「どこが?だれが?EVの覇者になるのか?」
1、テスラ
7月28日に米テスラが新しいEV「モデル3」の販売を始めました。
価格は3万5000ドル(約388万円)から。高級車を手掛けてきたテスラにとって初めての中価格帯車種になります。フル充電で走れる走行距離は354キロ、通信を使ったソフト更新で運転支援機能の強化が特徴で、「EVの本命」と呼ばれています。
2016年3月の予約開始から1ヶ月で40万台を受注しました(日経7/30)。
テスラは自動車の販売台数ではゼネラル・モーター(GM)の1%にもなりませんが、株式時価総額で約535億ドルで、GMの約507億ドル、フォード・モーターの約438億ドルを大きく上回り、全米最大の自動車メーカーです。テスラでは18年に現在の5倍以上の年産50万台に拡大する計画を立てています。
2、日産
対するのはルノー・日産グループです。10月発売予定の「新型リーフ」は、315万円から、フル充電で400キロ走ります。日産のゴーン会長は、<我々は(資本提携する仏ルノーを含め)EVを累計46万台販売した。メディア注目する米テスラの2倍だ>、と株主総会で力説しました。
ところがゴーン会長、ここにきてとんでもない決断をしました。EVの心臓部、ガソリン車でいえばエンジンにあたる基幹部品である、電池事業を売却しました。
8月8日に車載用電池メーカー、オートモーティブエナジーサプライ(AESC)の株式51%を中国の投資ファンドに売却すると発表しました。
たとえば、テスラの「モデル3」の電池は、テスラとパナソニックが約50億ドル投じた米ネバダ州の巨大工場で生産します。
トヨタはパナソニック、ホンダと三菱自動車はジーエス・ユアサコーポレーションと電池を共同生産します。各社の逆を行く日産の狙いは何でしょうか。
まず、日産は電池事業の投資競争と距離を置くのです。バイヤーに徹し、供給先をてんびんにかけます。「情より理」。かつてゴーン会長は鉄鋼の値引き交渉で、NKKと川崎製鉄を経営統合させJFEMホールディングスを誕生させました。電池を忘れ、EVの開発生産に専念します。これがゴーン流です。
次に、真の狙いは中国市場にあります。2016年のEVの世界での販売台数は約47万台、その半分は中国でした。さらに中国政府は18年にも自動車メーカーに一定以上のEV生産義務づける規制を導入します。
その中国で、仏ルノー・日産自動車連合は8月29日に、中国東風汽車集団とEVを開発する合弁会社「eGTニュー・エナジー・オートモーティブ」を設立すると発表しました(日経8/30)。日産は中国で独フォルクスワーゲン、米フォードと戦います。
3、トヨタ
トヨタは8月4日にマツダとの資本提携することを発表しました。
第1に、クルマをめぐるテクノロジーは、「EV」だけではありません。「自動運転」、「コネクテッドカー(つながるクルマ)」、「シェアリング」、「人工知能と通信」・・・。グーグル、アップル、アマゾンとの闘いです。
第2に、トヨタは大きくなりすぎた。マツダは金がない中でどうするかを考えていた。たがいに学ぶのです。
第3に、マツダの研究開発費はトヨタの13%。さらにマツダは北米ではメキシコにしか工場がありません。提携で、米国に工場を新設します。トヨタとの提携は生き残り、発展する提携です(日経8/4, 8/5)。
最後に高級EVの話を。ポルシェはフル充電で500キロ走る「ミッションE」を20年までに発売します。0~100キロ、3.5秒、「911」より強い加速性能です。
ジャガー・ランドローバーは、1000万円の「Iペース」を19年初めまで、英アストンマーティンは19年に高級スポーツカー「ラピードE」を3000万円程度で、それぞれ発売します。
EV論争は面白い。大金持ちだったら、どこに投資するか。そして富豪だったら、どのEVを買うかで悩んでしまう。しかし、貧乏人にはどちらも関係ない。でも、100年目の転換期は面白い。
テスラとは発明王のエジソンの「直流」に反逆し、「交流」で戦ったもうひとりの天才ニコラ・テスラ。
テスラのイーロン・マスクが、アップルのスティーブ・ジョブズのような、覇者(ヒーロー)のなるのでしょう。