水がエネルギーになる、夢の社会が近づいている。

クリエーティブ・ビジネス塾18「水素社会」(2015.4.29)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、ミライ
「ミライ」という名の自動車が街を走っていることを知ってますか。未来を先取りしているクルマです。なぜ「ミライ」かというと、大気汚染や地球温暖化の原因となる排気ガスを出さないからです。水素を使って走る。水素は燃えると酸素と結合して水になる。水しか出さない。つまり究極のエコカーです。「ミライ」は昨年12月に日本のトヨタにより世界初のFCV(Fuel Cell Vehicle= 燃料電池車)として発売されました。
ちょっと復習します。同じくトヨタの「プリウス」に代表されるハイブリッド(Hybrid=混成)車はガソリンエンジンと電動モーターを併用して走るクルマです。テスラモーター(米)に代表されるEV(Electric Vehicle=電気自動車)は電気だけで走るクルマです(日本では三菱、日産が先行)。
水素はクルマだけでなく社会を変えようとしています。家庭でエネルギーを作る「エネファーム」があります。都市ガスや灯油から水素を取り出し発電するシステムで、発電のときの熱でお湯も使える、家庭用の燃料電池です。すでに10万台以上普及しています。水素がエネルギーの主役になる未来は「水素社会」といわれます。2020東京オリンピックパラリンピックで「晴海水素タウン」は水素社会のショーケースになります。FCVが選手を乗せ、選手村ではエネファームで快適な未来ライフをエンジョイできます。
2、水素社会
水素は、どうやって作るか。まず、天然ガス、ナフサなどに水蒸気を反応させ取り出す、つぎに石炭を高温でガスにして抽出する、そして本命は、水の電気分解で水素を取り出す。地球は水の星、水はたっぷり、水素はほぼ無尽蔵。いいことずくめですが、まず、水素自体はエコでも、水素を作るときに二酸化炭素を発生する矛盾がある。つぎにコスト。水素を作るときの電気分解に使う電気をそのまま使った方がロスが少ないという議論すらあります。そこで、再生可能エネルギーで水素を作るが、夢になります。
水素には貯蔵し、輸送できるメリットがあります。電気は貯蔵も長距離送電もできません。もし電力が余るならば、水素にして貯蔵し、輸送すればいいのです。水素は高圧に圧縮すれば、大量に貯められます。FCVはEVよりはるかに長い走行距離を誇る、そのことが水素のアドバンテージを証明しています。さらに水素なら海外から大量に輸入することが可能です。赤道直下や砂漠の強い日光で作られた水素を日本で使うのです。そうすれば、水素発電も可能になります。
「水素社会」の実現です。日本のエネルギーの海外依存と慢性的な不足は克服されます。現在の日本は90%以上を輸入した化石燃料に依存し、貿易赤字となり日本経済を圧迫しています。さらに温暖化ガス排出量でも50年に80%削減のクリアはむずかしくなってきています。「水素社会」はその全てを解決します。
3、現実
水素は人類の夢のエネルギーですが、「水素社会」実現には数々のハードルがあります。
まずコスト。たとえば「ミライ」の維持費は、ハイブリッド車より高くなります。さらに水素ステーションが街中に整備されていません。インフラの整備には相当時間がかかります。そして使われる水素が炭素フリー(二酸化炭素の排出を伴わないもの)でなければ意味がありません。しかし日本は再生可能エネルギーの生産に適していない(日射量、強度、風の強さ)。炭素フリーの水素を輸入する必要がある。道は遠い。
産業界からの声もあります。水素は火力や原子力のような大規模集中電源には不向きで、比較的規模の小さい地域単位の利用に向いている。離島での利用、地域の分散電源に適している(田中久雄東芝社長 「水素社会がやってくる」日経 4/26)。そして田中社長はエネルギーの大半が水素の置き換わることも否定します。水素は、火力、水力、原子力、太陽光と並ぶ一つになると予想しています。さすが、原子力で世界のトップを走る東芝です。
では、いつから水素社会が始まるのか。バラバラです。東芝の田中社長は2020年が開花期、日経の「エコノ探偵団」(4/7)は2030年代に水素発電開始、安井至東大名誉教授は水素社会の到来を2070〜80年代と見ています(「水素社会がやってくる」日経4/26)。
八十日間世界一周』を書いたフランスの小説家、ジュール・ベルヌ(1828〜1905)は、「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という名言を放ち、「水がいつか燃料になる」と想像しました。発電、製鉄、飛行機、鉄道、すべてがクリーンな水で動く時代がやってきます。