クリエーティブ・ビジネス塾36「EV①」(2017.9.4)塾長・大沢達男
「EV(電気自動車)は地球環境を改善するか?」
1、エンジンの時代の終わり
ガソリンエンジンによる自動車の歴史は、1885年のダイムラーとベンツの自動車の発明から始まります。
その後自動車は米国に渡り、1908年のT型フォードの発売で、誰もが所有し、誰もが運転できるものになります。以来100年以上続いた、ガソリンエンジンの自動車の時代が終わろうとしています。
英仏両政府は、2040年までにガソリン車などの販売を禁止する「脱エンジン」の方針を打ち出しました。米国でもカリフォルニア洲などでEV普及の後押しをし、中国やインド政府は環境規制を盾に、自動車産業での下克上を狙っています。
日本では、日産自動車はEV「リーフ」の初のフルモデルチェンジをし、「日産のコアになる車」と表明しました。そしてHV(ハイブリッド車)で世界をリードし、FCV(燃料電池車=水素エンジン)で未来を展望してきたトヨタも、マツダと資本提携しEVの共同開発をすると、発表しました(日経8/9、9/10)。
2、「買い」の会社はどこか
FVの登場により、100年以上続いてきた自動車産業の産業構造は、根本的に変わります。
経済産業省は、ガソリン車に必要な部品点数は約3万個、EVではエンジン関連などの約4割の部品が不要になると、試算しています。
○駆動用モーター・・・駆動用モーターの「日本電産」では。30年の売上高は16年度比で15倍の4兆円と見込んでいます。永守重信会長兼社長は「千客万来」とEV時代を歓迎しています。
○リチウムイオン電池・・・車載用リチウムイオン電池の世界首位は「パナソニック」。支えているのは、車載用電池の正極材を作っている「住友金属鉱山」です。国内の生産能力を2.5倍の上げる計画。さらにパナソニックを通じて米テスラへの納入も決定しています。
同じく正極材を手掛ける「戸田工業」の株価が20%高に。「田中化学研究所」も13%高。
電池の発火を防ぐセパレーター(絶縁材)では「旭化成」が世界の首位です。2O年までに国内外の生産能力を2倍に引きあげます。世界2位の「東レ」は目線を東欧に、20年までに1200億を投じます。
○インバーター・・・バッテリーからの直流電力をモーターで使う交流電力に変えるインバーター(電力変換装置)に使うパワー半導体を作っている「富士電機」は、欧州自動車メーカーにサンプル輸出しています。
×鉄鋼メーカー・・・リチウムイオン電池を使うEVは、車体が重くなります。走行距離を伸ばすために、素材の軽量化が必要です。自動車の主要部材は、重たい鉄から軽いアルミや樹脂の置き換えられます。米エネルギー省は、自動車部材で15年に7割超を占めた鉄の比率が30年に4割台に低下すると、予測します。
×ピストンリング・・・エンジンのピストンリングを作るリケン、TPR(帝国ピストンリング)の株価は下げです。
×石油・・・JXTGホールディングスなど石油各社の株価は全面下げになっています。
(日経7/28.8/10)
3、地球環境
ではガソリン(石油)を使わないEVが増えれば、空気はきれいになるのでしょうか。地球の温暖化は阻止できるのでしょうか。
<発電時の二酸化炭素排出量まで考えれば、エンジン車とEVとの差がなくなる>。EV自体は、排出ガスを出しません。しかし電力を作るためにオイルを使います。
ガソリン車に対するEVの二酸化炭素削減率は、フランスで90%、中国では15%減にとどまります。フランスでは原子力発電の比率が高く、中国では70%以上を二酸化炭素を排出する石炭火力発電に頼っているからです(日経8/11)。
いくらEVを増やしてもエネルギー源から変えなければ、根本的な地球温暖化対策にはならない。
米国のEVで独走するテスラは、ここが違います。創業者のイーロン・マスクは、発電からEVまでの一気通貫のエネルギーインフラの構築を狙っています。「テスラ」は社名から「モーターズ」を外しました。太陽光発電の米ベンチャーを買収し、さらにEV用電池に加え、据え置き型蓄電池にも事業を広げています。
<40年には1日800万バレルの石油の需要が減る>(米調査会社ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス調べ)。800万バレルはOPEC(石油輸出機構)の1日の生産量の4分の1に相当します。
石油の時代は終わるのでしょうか。それとも中東に新たな紛争が起きるのでしょうか。