クリエーティブ・ビジネス塾13「エルビス③」(2018.3.26)塾長・大沢達男
1、『Hawaiian Wedding Song』(1961年)
♫ いまこの時を ぼくは待っていたんだ/ぼくの心が歌っている すぐに鐘が鳴るだろう
いまこの時を 甘いアロハを/永久(とわ)よりもっと 君が好きだ/けっして別れないって 誓う
ここにいる君こそ ぼくのすべて/ぼくは誓う/別れないって約束しよう/永久よりもっと 君が好きだ
You-a, si-la/Pa-a ia me o-e/Ko a-la-ha/ma-ka-ma e i-po/Ka-you ia e le-i a-e ne-i la
いまぼくたちは ひとつさ/降り注ぐ陽を 雲は隠せない/ハワイの青空が 微笑む/このぼくたちの結婚の日を/ぼくは心から君を慕う ♫(訳詞:アオヤマゴロウ)
エルビスの映画『ブルーハワイ』(1961年)から、この1曲として『ハワイアンウエディングソング』を選びました。オリジナルではありません。1926年にオペレッタ『プリンス オブ ハワイ』のために書かれた曲です。
『No More』もいいです。この原曲も19世紀に書かれたラテン音楽の『ラ・パロマ』です。
オリジナル曲よりカバー曲の方がいい。そこに歌手としてのエルビス・プレスリー活躍の秘密があります。誰もエルビスのように歌えない。ピカソで「絵画」が終わったように、エルビスで「歌手」も終っています。
2、エルビスの変遷
第1期「ザ・キング・ロックンロール」・・・エルビスは、1954年7月にサン・レコードで『ザッツ・オールライト・ママ」を歌い、歌手としてスタートしています。そして1956年のRCAレコードの『ハートブレイクホテル』でブレイクしています。ところが、1958年3月に徴兵され、歌手活動を中断しています。「ザ・キング・オブ・ロックンロール」はたったの4年でその活動を終えています。「あなたの故郷でエルビスは歌ったか」。有名な本があるように、エルビスは「ワンナイター」として、たった一晩のコンサートのために、全米を駆け巡り、歌っています。エルビスの人生は旅でした(『エルヴィス・プレスリー』p.167 東理夫 文春新書)。
第2期「映画スター」・・・1960年3月にエルビスは除隊します。しかしエルビスは人前で歌わなくなります。マネージメントをしていたトム・パーカー大佐の戦略です。映画と映画で歌われた曲だけがレコードになりました。『G・I・プルース』(1961)から『スピードウェイ』(1968)まで、20数本の映画に出演します。エルビスは1961年のハワイでのチャリティ・コンサートを最後に、61年〜68年までの7年間、生の姿を人々の前に現わしていません(前掲p.189)。ロックンロール歌手を辞めています。
第3期「アメリカン・ヒーロー」・・・そして豹変、1969年〜1977年は、平均して年間150回ほどのコンサートをやっています。異常な回数。そして燃えつきるように、77年にグレイスランドで亡くなっています。
『ELVIS '68 COMEBACK SPECIAL』があります。1968年12月8日放送のNBC・TVのスペシャル番組です。ブラックの皮のスーツを着たエルビスが、中年の女性たちを前に歌っていますが、哀れです。
時代は変わりました。エルビスが「映画スター」や「アメリカン・ヒーロー」であったころに、「ビートルズ」が世界を席巻し、さらにウッドストック・フェスティバル(1969.8)が開かれています。
3、最後の歌手
映画『G・I・ブルース』からの1曲は、『さらばふるさと(Wooden Heart)』です。これもオリジナルではありません。映画を見れば分かるように、子ども達も歌えるドイツ民謡です。
♫ わからないの 君が好きなんだ/ぼくの心を引き裂かないで/そんなことしないよね/だってぼくの心は固い木じゃないんだもの/もし君がさよなら言ったら/多分泣いちゃう 分かるんだ/もしかしたら 死んじゃうかも/だってぼくの心は固い木じゃないんだもの/ぼくの心に偽りはない/はじめから 君だけなんだ
やさくししてね 気持ちよくしてね/本気でつきあって/だって固い木じゃない/ぼくの心は固い木じゃないんだもの
Muss i'denn, muss i'denn, zum Stadtle hinaus,/Stadtle hinaus,und du, mein Schatz, bleibst hier(ぼくは町を出るけれど?それでも君はここにいるの?)
Sei mir gut, sei mir gut, Sei mir wie du wirklich salllst wie du wirklich salllst (ぼくを優しくして ぼくを大切にしてね)
だってぼくの心は固い木じゃないんだもの ♫(訳詞:アオヤマゴロウ)
エルビスは誰も追いつけない偉大な歌手でしたが、ロックミュージック(「音楽」)の登場により、ロックンロールシンガー(「歌手」)の時代は終わりを迎えていました。エルビスは最後の歌手でした。