クリエーティブ・ビジネス塾33「ソサエティ5.0」(2019.8.12)塾長・大沢達男
1、ソサエティ5.0
ソサエティ5.0(Society 5.0)とは、日本が世界に向けて提唱する未来社会のコンセプトです。
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0) 、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)、そしてデジタル・イノベーション社会(Society 5.0)というわけです。
ドイツのインダストリー4.0に対抗して、提出されました。製造業の生産性だけに焦点をあわせたものではなく、社会のありようや社会問題の解決を包括的にテーマにしています。
2、データ駆動社会の展望
1)ムーアの法則・・・平本俊郎(東京大学教授)の緒論を紹介します(日経7/18)。
まず平本教授は、ソサエティ5.0の社会が半導体の社会であることを指摘します。データ収集は高性能センサー、データの蓄積はメモリー、そしてデータ分析はプロセッサー(処理装置)、データ社会は半導体の社会です。半導体を制するものが世界を制します。半導体が国力を左右します。
つぎにに平本教授はムーアの法則は終わらないと主張します。ムーアの法則とは、半導体性能が指数関数的に向上すること。具体的には、チップ状のトランジスタ数が微細化で1.5年で2倍になる(その後2年で2倍に修正)、というものです。トランジスタ微細化は、高速化、低消費電力、高集積化、低コスト化につながります。微細化に限界はない。さらには立体化もある。ムーアの法則はこれから10年以上続きます。
2)ブルーオーシャン(未開拓の市場)・・・つぎは越塚昇(東大教授)です(日経7/17)。
データにはオープンデータ、パーソナルデータ、産業データがあります。
まずオープンデータとは、公的機関が持っているデータの公開です。政府は2万点のデータを公開しています。しかし1788の地方自治体のうちオープンデータに取り組んでいるのは600程度に留まっています。
つぎのパーソナルデータは、個人の指示に基づき適正に取り扱うシステムとして構築され、利用されています。情報銀行、PDS(パーソナル・データ・ストア)です。パーソナルデータは、医療、教育、金融、観光用でしたが、近年では信用スコアサービス、パーソナルデータ連動型の保険サービスにも使われています。
最後の産業データには、公共データ、公共交通機関の運行データ、気象データなど、ビッグデータがあります。データを連携させることで生まれるのが「スマートシティ」です。データは「現代の石油」。越塚教授はデータ駆動型の事業領域はブルーオーシャン(未開拓の市場)であると結びます。
3)マーケティング・・・最後は上武康亮(エール大学准教授)の緒論です。上武准教授の説は非常にわかりやすい。ソサエティ5.0を、マーケティングの4P(Product、Price、Promotion、 Place)で説明します。
価格決定はダイナミックプライシング。機械学習に基づいて飛行機、ホテル、スポーツ・チケットの価格づけがされる。ライドシェアサービスの価格も、時点、地域、需要と供給で細かく設定される。
プロモーションン分野では検索言語広告。広告主はどの検索言語に対していくら払うのか。機械学習の最適化技術で意思決定が行われている。メルカリの推薦システムも同じです。
流通ではスーパーのカートのセンサーを用いて最適な商品配置が行われています。アマゾン・ゴーでは顔認証システムで清算が行われています。
そして製品開発ではSNSのデータが商品開発に活かされ、米ネットフィリックスでは消費者データから自動的にコンテンツが作られています。
ソサエティ5.0にはふたつの危険性があります。ひとつはデータに基づく意思決定は、差別、不平等を助長する恐れがある。もうひとつは長期的なブランド価値向上など、ハイレベルの意思決定がむずかしい。つまり最後の課題は人材の育成ということになります。
3、進化論の呪縛
ソサエティ5.0に関する以上3人の大学教授の緒論をひと言に要約すると、「デジタル社会の技術革新は今後も続き、事業領域は未開拓の領域にさらに展開される、しかし意思決定をするのが人間である。人材開発はますます必要とされる」。シンギュラリティは2045年。そのとき働いているのは10人に1人。優秀な人材が1人いればいいということになります。
さてソサエティ5.0というのは、人類の努力目標になるでしょうか。狩猟や農耕はデジタル社会より劣っているでしょうか。文字がなかった中国長江文明や日本の縄文時代は、現代より不幸だったのでしょうか。
そろそろ近代に始まる進化論的歴史観から脱出する必要があります。このままでは、男と女、先祖と家族、キリスト教とイスラム教、西洋と東洋。現代の矛盾をなにひとつ解決できません