平和ボケの戦後70年。

クリエーティブ・ビジネス塾24「戦後70年」(2015.6.10)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、平和ボケ
戦後70年は、江戸時代250年の平和に次ぐ、長い平和の時代だった。「しかし平和と安定の時代は、その過程で幾多の重要課題を忘却し放置させるほど慌ただしいものでもあった。あらゆる制度や慣行が平和を前提として「凝固」した節がある。急激な変化や危機への対応意識が著しく低下した」(猪木武徳青山学院大学特任教授 「戦後70年 日本の立ち位置」 日経5/18)。
5月18日から22日まで、日本経済新聞に掲載された「経済教室」では、この猪木教授のほか、岩井克人国際基督教大学客員教授吉川洋東大教授、行天豊雄国際通貨研究所理事長、エズラ・ヴォーゲルハーバード大学名誉教授、5人の知識人が日本の戦後70年を回顧し、明日への提案をしました。
日本は、重課題を忘れている、平和に居直っている、危機に対応していない、5人の識者の意見を要約すれば、この3点になります。まず経済、つぎに軍事力、そして日本人の精神の危機です。
2、経済、軍事、精神
第1に経済。日本の経済成長と経済的繁栄は、平和であったから、成し遂げられたのではありません。戦後70年の世界経済の歴史は「米国の時代」だったからです(行天豊雄)。ドルが世界の基軸通貨で、ニューヨークが世界の金融センターであり、米国企業が競争と革新の象徴でした。1ドル360円のブレトンウッズ体制での為替相場は、米国の恒常的な対外赤字を前提にした、日本経済にとって圧倒的に有利なものでした。その後、71年のニクソン・ショックで変動相場制でドルは切り下げられ1ドル250円に、それでも日本には有利。そして1985年のプラザ合意で1988年には1ドル120円にまでなります。そして日本経済は、失われた20年の長い停滞に落ちて行きます。
第2に軍事力。恐るべきことですが、5人の識者のだれもが、日本の軍事力について触れていません。日本は世界第2位の海軍力、そして世界で5~7位の軍事予算を毎年計上しています。にも拘らず日本には平和憲法がある、「戦力を持たない」第9条があると居直り、国会で議論されている安保法制では安倍総理憲法を踏みにじっている、という鎖国的な議論がなされています。戦争は悲惨だ。戦争をしてはならない。あたりまえです。しかし現実は軍事力の世界です。イスラム国により日本人二人が虐殺された、中国・韓国により日本の領土が脅かされている、中国により南沙諸島が埋め立てられている、それに対して日本は何をすべきかです。もっと困ったことは、日本は歴史的に常にアジアの先導者であった、と考えるようのなったことです。歴史を無視した日本人の優越感です(猪木武徳)。中国はGDP国内総生産)で日本を上回り、日本の10倍以上ある人口の国です。
第3は日本人の精神の危機。まず少子化。それは日本人が誇りを忘れたからです。つぎに日本人の3分の2がこの国の将来はよくならないと思っています(行天豊雄)。そして技術偏重、製造業軽視、短期的な「成果主義」は「人を育てる」ことをせず、日本経済を衰退させています(猪木武徳)。さらに猪木は、「合理的なもの」によって人間の魂が解体される不安を持っている、と指摘します。少子化への悪循環です。
3、処方箋
戦後70年で識者が共通する処方箋は、教育と人材の問題です。「ジャパンアズナンバーワン」(1979)を書いたエズラ・ヴォーゲル教授は、大学でも指導者教育でも「もっと英語を」と指摘します。ビジネスの世界ではだれでも英語を使えるのに、政治家の英語力は淋しい限りです。岩井教授はおカネで買えるモノからおカネで買えないヒトの時代になる、それにふさわしい新たな会社システムを築くべきだ、としています。さらに猪木教授は、高度技術社会をいかに心身ともに健康に生き抜くか、その精神的エネルギーの有無こそが問題だと言います。抽象的ですが、文脈からすれば、「平和ボケ」への警鐘でしょう。
戦後70年、その起点となるGHQ(連合国総合司令部)の戦後改革に触れているのは岩井教授だけです。
GHQは財閥を解体しようとしたが、日本型会社システムで生き延びた、と発見しています。
しかしGHQ製の日本国憲法教育基本法は手つかずのままです。翻訳文のために日本語の間違いがある憲法、戦力は持たないという嘘つき憲法、そして個人の主張ばかりで社会への献身、祖国への愛を説かない教育基本法は、日本人の精神を蝕むばかりです。戦後70年。いまこそ私たちは、歴史と伝統を学び、詩歌と文学を学び、皇室を知り祖国に誇りを持つべきです。でないと、少子化で日本はやがて消えます。