サピエンス、たくさんの動植物を絶滅させた、史上最も危険な種。

TED TIMES 2020-6 「Sapiens-1」 2/3 編集長 大沢達男

 

サピエンス、たくさんの動植物を絶滅させた、史上最も危険な種(『サピエンス全史』 ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳河出書房新社)。

 

1、唯一生き延びた人類種

15万年前には、私たちにそっくりのサピエンスが東アフリカに住んでいた。ホモ・サピエンスアラビア半島に行き着いたときには、ユーラシア大陸にはすでにほかの人類が住んでいた。「交雑説」と「交代説」がある。ネアンデルタール人、デニソワ人・・・しかし残った人類種はサピエンスだけだった。ホモ・サピエンスが世界を征服できたのは、その比類なき言語のおかげではなかろうか。

2、虚構が協力を可能にした

7万年前から3万年前の新しい思考と意思疎通の方法の登場のことを「認知革命」という。「気をつけろ!ライオンだ!」と言える動物や人類種は多くいた。だがホモ・サピエンスは「ライオンはわが部族の守護霊だ」という能力を獲得した。これが認知革命である。近代国家にせよ、中世の教会組織にせよ、古代の都市にせよ、太古の部族にせよ、人間の大規模な協力体制は何であれ、人々の集合的想像の中にのみ存在する共通の神話に根差している。人権擁護運動家の大多数が、人権の存在を本当に信じている。国連も、リビアも、人権も、すべて私たちの豊かな想像力の産物に過ぎないのだが。私たちとチンパンジーの真の違いは、多数の個体や家族、集団を結びつける神話という接着剤だ。この接着剤こそが、私たちを万物の支配者に仕立てだのだ。

3、狩猟採集民の豊かな暮らし

人類全体としては今日の方が、古代の集団よりもはるかに多くを知っている。だが個人のレベルでは、古代の狩猟採取民は、知識と技能の点で歴史上最も優れていた。健康に良く多様な食物、比較的短い労働時間、感染症の少ない。多くの専門家は、農耕以前の狩猟採取社会を、「原初の豊かな社会」と定義した。古代の狩猟採取民がアニミズム信奉者だったというのは、近代以前の農耕民が有神論だと言うのに等しい。

4、史上最も危険な種

約4万5000年前、インドネシアの島々に住んでいたサピエンスが初めて海洋社会を発達させた。人類によるオーストラリア大陸への初の旅は、歴史上屈指の重要な出来事で、少なくともコロンブスによるアメリカへの航海や、アポロ11号による月面着陸に匹敵する。オーストラリアの征服者はこの大陸の生態系を、元の面影がないほどに変えてしまった。その後の数千年で、オーストラリア大陸の動物種24種のうち、23種が絶滅する。アメリカ大陸への移住も無血ではなかった。サピエンスがやってきてから2000年で、北アメリカの大型哺乳類47属のうち34属を、南アメリカは60属中50属を失っている。ホモ・サピエンスは、車両や書記、鉄器を発明するはるか以前に、地球の大型動物の半数を絶滅に追い込んだ。

5、農耕がもたらした繁栄と悲劇

1万年ほど前にすべてが一変する。人間は日の出から日の入りまで、種を蒔き、作物に水をやり、雑草を抜き、青々とした草地にヒツジを連れて行った。農業革命である。かつて農業革命は人類にとって大躍進だと信じられていた。夢想に過ぎない。人々が時間とともに知能を高めた証拠は皆無。農業革命は史上最大の詐欺だった。ホモ・サピエンスは小麦、稲、ジャガイモを栽培したのではなく、それらにより家畜化された。より楽な暮らしを求めたら、大きな苦難を呼び込んでしまった。農業革命は罠だった。家畜化された動物にとって農業革命は大惨事だった。

6、神話による社会の拡大

紀元前1万年ごろ狩猟採取民は500万~800万人、1世紀には100万~200万人。農耕民は2億5000万人になっていた。至る所で支配者やエリート層が台頭し、農耕民の余剰食料によって暮らした。宮殿や砦、記念碑や神殿が建った。神話は強力だった。想像力のおかげ大規模な驚くべきネットワークが構築される。神話が帝国を支える。「万人は平等に造られており、奪うことができない特定の権利を造物主によって与えられており、その権利には、生命、自由、幸福の追求が含まれる」。このような普遍的原理はサピエンスの豊かな想像力や神話の中だけに存在する。これらの原理には何ら客観的な正当性がない。生物学によれば、平等になるように進化していない、異なった形で進化している。生物学に自由などない。自由は人間の想像の中にしか存在しない。「幸福」の客間的計測もできない。快感なら定義も測定もできる。しかし想像上の秩序から逃れる方法はない。