TED TIMES 2020-7 「Sapiens-2」 2/10 編集長 大沢達男
ヒエラルキー、貧富、男女格差、家父長制度とは何か。以下は、『サピエンス全史』( ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)からの要約。
7、書記体系の発明
紀元前3500年~紀元前3000年にシュメール人が、脳の外で情報を保存して処理するシステムを開発した。「書記」である。メソポタミア人は紀元前3000年~紀元前2500年にシュメール語の書記体系を楔形文字と呼ばれる書記体系に発展させる。9世紀前より0~9までの記号を使い前代未聞の効率性をもって数理的データを保存、処理できるようになる。
8、想像上のヒエラルキーと差別
農業革命以降の人類史は、想像上の秩序の産み出しと書記体系の考案で、考えられる。アメリカの独立宣言の人間の権利で黒人は無縁だった。アリストテレスは奴隷は「奴隷の性質」を持っていると考えた。ヒンドゥー教徒は人知を超えた宇宙の究極の力がカーストを決めたと考えている。良識ある西欧人は、貧富のヒエラルキーは当然、と考える。しかし金持ちは金持ち、貧しいものは貧しいは立証された事実だ。アメリカはアフリカから奴隷を輸入し、支配する白人、隷属する黒人のカーストができた。お金はお金があるところに行き、貧困は貧困を招き、教育は教育を呼び、無知は無知を誘う。悪循環が何百年、何千年と続き、想像上のヒエラルキーを永続させた。男女の格差とは何か。女性の自然の機能は出産すること、同性愛は不自然の主張は、意味がない。男らしさや女らしさを定義する法律や規範、権利、義務の大半は、生物学的な現実ではなく人間の想像を反映している。家父長制はすべての農耕社会と工業社会で標準的だった。なぜか。わからない。1)筋力。人類の歴史からは身体的能力と社会的権力が反比例する場合が多い。ヒエラルキーが男性の筋力によるとは考えにくい。2)攻撃性。女性が秀でた政治家、帝国建設者になることはなかった。なぜかわからない。3)家父長制。ゾウやボノボは家母長制だ。サピエンスのオスは優れた社会的技能と協力的な傾向があるのか。わからない。
9、統一へ向かう世界
文化は不変の本質を持っているのではなく、絶えず変化している。中世の文化が騎士道とキリスト教の矛盾を抱えたように、現代は自由と平等の矛盾を抱えている。戦場での武勇による宗教的献身の立証。富者の自由を削減して実現する平等。でもそれが文化の原動力になる。文化は絶えず変化し、歴史は統一に向かっている。全世界と人類を想像させる普遍的な秩序になるものが登場した。1)貨幣2)帝国3)宗教である。だれもが「私たち」になった。
10、最強の征服者、貨幣
貨幣は安価で、富を他のものに換え、保存し、運び、複雑な商業ネットワークと活発な市場を出現させた。貨幣は物質的な現実ではなく心理的な概念である。貨幣は最も普遍的で、最も効率的な相互信頼の制度である。紀元前3000年紀半ばに「銀のシェルケ」がメソポタミアで出現する。史上初の硬貨はアナトリア西部の「リュディア」の王アリュアッテスが紀元前640年ごろ造る。ローマのデナリウス銀貨は見ず知らずの人にも信頼された。リュディア方式の硬貨制度が地中海からインド洋に広がっていった頃に、中華圏でも貨幣制度を開発され、中華圏とリディア圏で緊密な貨幣と商業の関係が確立される。世界が単一の経済・政治圏になる基礎ができる。貨幣は人間が生み出した信頼制度のうち文化の溝を埋め、宗教、性別、人種、年齢、性的指向で差別することのない唯一のものだ。
11、グローバル化を進める帝国のビジョン
帝国は、1)別個の民族を支配する、2)次から次へと異国民と異国領を呑み込み消化する。帝国は文化の多様性と変更可能な国境を持つ。最初の帝国はサルゴン1世のアッカド帝国(紀元前2250年ごろ)だ。そしてアレクサンドロス大王、ヘレニズム、ローマの皇帝、イスラム教国のカリフ、インドの君主、ソ連の首相、アメリカの大統領に受け継がれいく。アメリカ人は自国の政府には第三世界に民主主義と人権の恩恵をもたらす道徳的義務があると考えている。ローマ皇帝にはイベリア人、シリア人、アラビア人がいる。同じようにアラブ帝国にもアラビア人でもイスラム教とでもないエジプト人、シリア人、イラン人がいた。また中国でも、野蛮人の民族や文化が中国の帝国文化に統合されていった。「彼ら」は「私たち」になった。紀元前2000年ごろから人類は帝国で暮らしてきた。将来の帝国はグローバルなものなる。国家は独立性を失ってきている。帝国は、多民族のエリート層に支配され、共通の文化と利益によってまとまるようになる。