TED TIMES 2021-35「アフガニスタン」 9/3 編集長 大沢達男
タリバンのアフガニスタンはどうなるか。タリバンに中国はどう出るか。
1、タリバン
アフガニスタンの反政府武装勢力、タリバンが8月15日、首都カブールに進攻しタリバンのアフガニスタンはどうなるか。タリバンに中国はどう出るか。府を掌握し、米軍は8月31日までにアフガニスタンを完全撤退しました。米国は2001年の米同時テロをきっかけにタリバンを打倒しましたが、その復権でテロとの戦いは振り出しに戻ります。
タリバンとはアラビア語で「神学生」を意味します。1980年旧ソ連がアフガニスタンに侵攻したとき、難民がパキスタンに逃げ込みました。難民の子供たちは極端なイスラム原理主義を掲げる神学校で学ぶことで過激派思想を深め、94年にイスラム原理主義組織・タリバンが誕生します。タリバンは、96年にアフガン政府軍を制圧し、政権を樹立。国際テロ組織・アルカイダのウサマ・ビンラディンを保護し、欧米に敵意を示すようになります。2001年9月11日に米同時テロが発生、タリバンはビンラディンの引き渡しを拒否し、米英のアフガニスタン空爆により、政権は崩壊します。18年から駐留米軍の撤収を巡りトランプ米政権と協議を始め、20年2月に米との和平合意に署名しています。しかし停戦は守られませんでした。民主主義は育たず、「恐怖政治」の再来、中国、ロシアの影響力の拡大が懸念されています。
2、米国時代の終焉
今回のタリバンによるアフガニスタン制圧を、フィナンシャル・タイムスのギデオン・ラックマンは以下のように分析しています(日経8/18)。
まず米国は今後数十年間アフガンでの影響力を失う。その意味は、1979年パーレビ国王が追われたイラン革命、1975年南ベトナム首都サイゴン(ホーチミン)の陥落、1959年のキューバ革命に匹敵するとしています。
つぎに世界中のイスラム過激派が勢いづく。暴力的なイスラム主義運動が米国を打ち負かすのに成功したからです。タリバンに学び、タリバンに指導を仰ごうとします。また国際テロ組織アルカイダが(ヒマラヤ西方の)ヒンズークシの山岳地帯で大っぴらに活動するようになります。
そして隣国でも新たな対応を迫られています。インドではイスラム教徒が多いジャム・カシミールの治安悪化、中国では新疆ウイグル自治区ではウイグル族がアフガンに拠点を作ろうとする恐れ、イランではタリバンに迫害されてきたハザラ人の状況、さらにすべての隣国と欧州連合(EU)では大量の難民の流入を恐れています。
なかでも最も不透明で危険な国は、パキスタンです。パキスタンはタリバンの育ての親です。数十年間タリバンを匿(かくま)ってきました。なぜかアフガンがインドの支配下にならないためにです。しかし複雑、タリバンの勝利により、イスラム過激派が勢いづけば、パキスタンにも危険な状態をもたらすからです。
3中国
中国はしたたかです。7月28日に王毅(ワン・イー)国務委員兼外相がタリバン幹部のバラダル師と天津で会談しています。
1)中国政府がタリバン政権と実務的関係を構築できれば、経済的な恩恵をもたらします。パキスタン南部のグワダル空港までの交通動脈が整備できます。2)インドは包囲され、中国はインド政府への圧力を強めることができます。3)そして中国はタリバンにウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)との決別を突き付けます。イスラム教徒と100万人以上を強制収容所にいれていることに文句を言わせません。タリバンに武器を提供するパキスタンは中国の友好国です(日経「大機小機」9/20)。
アフガニスタンは、旧ソ連も米国も敗れた、「帝国の墓場」です。中国はどうなるのでしょうか。
疑問1)96年にタリバンはアフガンを統治し、今回の統治は2度目です。人々はタリバンを支持しています。疑問2)「イスラム原理主義」とは、大東亜戦争で日本人を「ジャップ」、ベトナム戦争でベトナム人を「ベトコン」と呼んだのと同じ、差別用語です。疑問3)タリバンの主張にたいする、報道が全くありません。