説得力(発明しているか)、報道力(発見があるか)、提案力(面白いか)で社説を採点する。

TED TIMES 2022-01「元旦社説」 1/1 編集長 大沢達男

 

説得力(発明しているか)、報道力(発見があるか)、提案力(面白いか)で社説を採点する。

 

朝日新聞憲法75年の年明けに。データの大海で人権を守る)

日本国憲法施行75周年を迎え、デジタル時代の「新たな統治者」GAFAと人権の問題を考えたい。ファイスブック(現メタ)のメタバースでは、生活は仮想空間に移り、ザッカーバーグが立法者になり我々を拘束する。表現の自由、民主主義と衝突する。EUでは個人情報保護を基本的人権と位置付け、米国でも規制を強めている。日本は追いついていない。憲法が個人の尊重を掲げているにも拘らず。データをめぐる自由と権利を憲法上、あるいは法律上、整える必要がある。企業の自由はもちろん必要であり、人権をさまたげるのは国家であることも忘れてはならない。個人の尊重のために、権力者の抑制と均衡を求めたい。

*デジタルを取り上げた朝日の勇気は偉い。しかし、現場からの問題事例がない抽象論。問題は人権より民主主義の危機。さらに新聞メディアの終わりが論じられていない。説得力C 報道力C 提案力B

 

毎日新聞(民主主義と市民社会 つなぎ合う力が試される)

冷戦後の世界は民主化するの楽観論から、現在の専制的な権威主義への懸念生まれている。アフガン、ミャンマー、トルコ、ハンガリーの例がある。各国政府は安全と暮らしを守る処方箋を書けていない。民主主義国家では政治の不信不満が高まり、共産党独裁の中国が体制の優位性を誇示している。日本でも政府への信頼度は急落している。沖縄では民意が置き去りにされている。沖縄は「日本民主主義のカナリア」である。危険が迫っている。人々とテーブルを結ぶテーブルを作りたい。フランスのくじ引き、スペインのオンライン、沖縄のシビックテック・・・。代議制の足りないところをどう補うか。民主主義の力が試されている。

*地味であるが丹念に民主主義を論じる毎日の誠意は好感持てる。沖縄の民意が裏切られていると言うなら、基地問題と安全保障に、具体案を提案する必要がある。説得力B 報道力B 提案力B

 

○読売新聞(災厄越え次の一歩踏み出そう 「平和の方法」と行動が問われる」)

マネー所得で歪んだ市場経済と中国軍事大国化の平和危機そしてコロナから新しい一歩を踏み出す年である。まず雇用、給付金ではなく投資型へ。「新しい資本主義」である。財政は赤字だが民間に金がある。研究機関への投資で雇用は生まれる。「はやぶさ2」のイノベーション、宇宙ビシネスがある。反面、技術の中国への流失がある。そして中国には病院での患者情報の流出の「経済安全保障」、南シナ海、領海侵犯の軍事的圧力ある。中国は西太平洋の空・海を制す。勝てると思わせないことが最大の防御。経済と政治こそが、国力のもとである。岸田政権は参院選が正念場、勝利すれば難局を切り開ける。

*恒例の長い社説はやめるべきだ。渡辺恒雄氏だからできたもの。いまでは文章が悪すぎる。何の発見もない、何の提案もない。中国とどう付き合うのかわからない。説得力C 報道力C 提案力C

 

東京新聞(「ほどほど」という叡智)

SDGs」(持続可能な開発目標)という言葉が流行している。貧困、健康、教育、ジェンダー平等などがあるが、環境が重要である。産業革命前からの世界の気温上昇を1.5度まで抑えることは現行では不可能で、30年に向けて新たな案が必要である。しかし温室効果ガスは少なかったら地球の気温はマイナス19度になる。ほどほどが大事である。魚の不漁の問題でも、捕りすぎず、ほどほどが必要である。志摩の海女さんが使う「寸棒」がある。小さいアワビは海に戻す120年前からの叡智である。食べすぎ、とりすぎ、使いすぎ・・・問題は過剰。人間と自然との関係は、いい塩梅、うまいさじ加減である。

*社説というより洒脱なエッセイ。芸事の記事が多かったという都新聞の伝統を感じ、なんとも懐かしい。粋でしゃれている。これが、新聞の未来かもしれない。説得力 A  報道力 A 提案力 A

 

日本経済新聞(資本主義を鍛え直す年にしよう)

新型コロナは経済と社会を変え、内包していた問題をあぶり出した。米中対立、国内の貧富、人種・性別の分断、そして経済では民主主義型と権威主義型の資本主義が対峙している。民主型では安全網、政府債務の増大、デジタル化による雇用の縮小、「勝者総取り」の問題が。権威主義型では、格差、IITと不動産企業への統制。国家の介入は人を幸福にしない。大恐慌のあとのケインズ経済学、政府の肥大化のあとのサッチャーレーガン新自由主義リーマンショックと今回の政府の役割。資本主義の緊急課題は、地球温暖化GAFAの寡占、SNSの社会政治問題。資本主義を鍛え直す年になる。

*資本主義の歴史を俯瞰する社説は、わかりやすく、説得力がある。欲をいえば、何か重大な事実の発見が欲しかった。一つのエヴィデンスが説得力を倍加する。説得力A 報道力B 提案力B

 

産経新聞(さらば「おめでたい憲法」よ)

年賀状を出す人が平成14年から4割も減っている。SNS全盛と、「めでたい」気分になれない人への忖度が原因。だが正月だ、「めでたく」いきたい。日本人の平均寿命はコロナ下でも延びた。ワクチン接種率も8割、世界のトップクラス。個人の保有する金融資産も一人当たり1600万円で世界2位。戦後76年の平和も「めでたい」が、「いざ鎌倉へ」の備えができていない。天安門事件で孤立中国を円借款天皇陛下訪中で救ったのは日本である。この大失策がモンスター国家を生んだ。習近平による台湾有事はある。憲法が有事対応の邪魔をしているなら、今年こそ、憲法改正論議すべきた。「おめでたい憲法」は、もう要らない。

乾正人氏の署名論文は楽しみだ。ウィットがある。といえ今年の出来は、7割程度、ややよいぐらい。説得力B 報道力B 提案力B

 

フィナンシャル・タイムズ(強権支配は見た目より弱まる。3人のエセ民主主義者が2022年には去る)

民主主義は後退しているが、2022年に改善される。3人のエセ民主主義者が退陣する。まずフィリピンのドテルテ。憲法改正に失敗し5月の選挙で退任する。国際司法裁判所は彼の戦争と麻薬を捜査している。後継が独裁者の息子”ボンボン”マルコスというのは残念だが、ともかくフィリピンは最悪に日々から脱出できる。次はハンガリーのオーバン。EU最古参の指導者も4月の選挙で敗れる。選挙結果に対してトランプスタイルの選挙の不正疑惑で反発したとしても、オーバンの10年以上の強権は幕を閉じる。3人目は熱帯のトランプ、ブラジルのボルソナル。10月の大統領戦で敗北し、不正を叫び、軍隊を使うだろう。しかしブラジルの民主主義はそれに勝つ。もうひとり、トルコのエルドラン。彼は23年まで選挙の洗礼を受けないが、経済の失政は目に余る。世界には再び民主主義の光があたる。

*まさしく”リベラル帝国主義”の論説。毎日の、沖縄は「民主主義のカナリア」、より視野は広い、しかしこの上から目線は強権主義そのもの。説得力B 報道力A 提案力C

 

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ランキング

 1、東京   2、日経   3、産経   4、毎日   5、朝日   6、読売

新聞は終わっている。趣味人の媒体になっている。東京はそれを先取りしている。

 

取り上げられなかった問題。

1、皇室・・・万世一系を守るための具体策を提案すべきである。日本国憲法の14条の基本的人権と象徴天皇は明らかに矛盾する、この点からもGHQ憲法を改正すべきである。「僕らは命に嫌われている」「幸福の意味すらわからず」という歌が、あたりまえのように紅白歌合戦で歌われた。日本人は病んでいる。

2、ナショナリズム・・・「ナショナリズムの美徳」(ヨラム・ハゾニー 庭田よう子訳 東洋経済)が指摘するように「リベラル帝国主義」から脱するべきである。自由(ジョン・ロック)と世界平和(イマヌエル・カント)の西欧の個人主義の時代は終わっている。

3、デジタル社会・・・朝日がGAFAを取り上げたのは素晴らしい。しかしピント外れ。どうして、PC、AI、EVを論じないのだろう。誰もが情報を作り発信できる、巨大IBMに挑戦状を叩きつけたジョブズに学ぶべきである。でなれば、イノベーションもあり得ない。