美術展で試される鑑賞者。

THE TED TIMES 2022-28「ルートヴィッヒ展」 8/13 編集長 大沢達男

 

美術展で試される鑑賞者。

 

1、見るとは見られること

美術展で私たちは、逆に作品から自分を見返されています。理解しているか。鑑賞するに値する人間か。いままで何を創造してきたのか。自分自身がテストされています。「ルートヴィッヒ美術館展」(2022.6.29~9.26 国立新美術館)で、そのことを強く感じました。

ルートヴィッヒ美術館の所蔵品は、ペーター&イレーネ・ルートヴィッヒ夫妻がケルン市に寄贈したコレクションが中心で、ドイツ表現主義新即物主義ピカソアメリカのポップアートなどで、20世紀以降の美術史が概観できるもの。つまり私たちは、いきなり20世紀美術史の試験を受けることになります。

2、ルートヴィッヒ美術館展

0)序章「ルートヴィッヒ美術館とその支援者たち・・・いきなり○アンディ・ウォーホルの「ペーター・ルートヴィッヒの肖像」が出てきます。

1)ドイツモダニズム・・・○フランツ・マルクの「牛」が印象に残ります。抽象と具象の境界線にあるような油彩による絵画です。○ワシリー・カンディンスキー「白いストローク」。さすがカンディンスキー、見事なコンポジション。ひと目でそれとわかります。○ジョージ・グロスエドゥアルト・ブリーチェ博士の肖像」は、ちょっとマンガっぽい。それが笑いを誘います。○パウル・クレー「陶酔の道化師」は、抽象のようで具象、過渡期の作品、抽象だけになっていません。貴重な作品です。

○そしていきなり写真。アウグスト・サンダー「菓子職人」。堂々とたるおっさんが撮られています。写真には被写体とともに撮影者が写ります。サンダー自身がどっしりとした人格者であることがわかります。

2)ロシア・アヴァンギャルド・・・○グスタフ・クルツィス「ダイナミックな街」のコラージュがあります。たんなる抽象画ですが、都市計画のスケッチのようです。ル・コルビジェを思わせます。そして写真○アレクサンドル・ロトチェンコ「電線」、「水への跳躍」です。ロトチェンコ、その名を忘れてはなりません。

3)ピカソとその周辺・・・まず○アンリ・マティス静物」があります。友人のアーティストが言いました。マティスは上手い、絵を描かないお前にはわからないだろうが、筆捌きが手慣れているんだ。○パブロ・ピカソ「女の肖像の楕円皿」、「女の肖像の皿(ジャクリーヌ)」がいい。この2作品を見ただけでも、今回の展覧会の価値があります。そして○マン・レイアルノルト・シェーンベルク」、「ジャン・コクトー」。この作品にもマン・レイ自身が写っています。

4)シュルレアリスムから抽象へ・・・○ハンス・アルプ「女のトルソ」。懐かしい作品に出会ったように感じました。20代のころに偏愛していた『ダダ』(美術出版社)に載っていました。○ウィリアム・デ・クーニング「無題Ⅶ」。2メートル四方の抽象の大作。記憶に留めるために縮小版をスケッチしてみました。自分の手で描いてみて改めてわかる、淀みのない曲線があります。

5)ポップ・アートと日常のリアリティ・・・○ジャスパー・ジョーンズ「0-9」。0から9までの数字が書いてあるだけの作品です。さすが。○アンディ・ウォーホール「二人のエルヴィス」。アンディはエルヴィスの秘密。つまりマネージャーのトム・パーカーの秘密(殺人犯で密入国者)を知っていたとしか思えません。

6)前衛芸術の諸相 7)拡張する美術 最後のふたつのコーナーでは感動する作品がありませんでした。

3、合格か不合格か

アンディの仕事の基本はデザイン(計画)ですが、見るものを飛翔させる(無計画)力があります。彼の写真集・作品集を、クリエイティブ作業で行き詰まった時、いつも見ていました。写真は撮ります。アウグスト・サンダーの写真には重力があり、ロトチェンコの写真は音楽で、学べます。カンディンスキー、クルツィス、クーニングの作品はデザインです。優れた都市計画が、秩序あるインフラを持ちながら、人々の創造性を飛躍させるように、デザインは平面計画、空間計画、時間計画で人を魅了します。

いままで世界の美術館で鑑賞力を鍛えてきました。大英博物館(ロンドン)、テート・ブリテン(ロンドン)、アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン)、ルーブル美術館(パリ)、ピカソ美術館(パリ)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)、ニューヨーク近代美術館(ニューヨーク)、グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)、ホイットニー美術館(ニューヨーク)・・・プラド(スペイン)とシスティナ礼拝堂(イタリア)に行ってないのが、決定的な欠点です。

さて美術館の神様は、私の鑑賞力をどう評価するでしょうか。合格、それとも不合格。