村上隆のライバルは、あのミケランジェロ。

クリエーティブ・ビジネス塾5「五百羅漢」(2016.1.27)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、マイ・ロンサム・カウボーイ
村上隆(1962年生まれ)を知っていますか。野球のダルビッシュ、テニスの錦織圭、スキージャンプの高梨沙羅のように、美術の才能として世界のトップで活躍しているアーティストです。
東京芸術大学日本画家の博士課程卒業。日本画で初めて博士号を取得したという経歴をもっています。ではむずかしい先生かというと全然違う。その作風は、アニメ、フィギュア、オタク文化の影響を受けたものです。なにー?コレー!ホントに芸術なの?と、驚くような作品ばかりです。
代表作『マイ・ロンサム・カウボーイ』は、等身大の裸体の若者のフィギュア。若者はペニスを持ちオナニーをし、精液を空中に円を描くように飛び散らしています。この作品がなんと16億円で取引きされました。
最新作が展示されている「村上隆の五百羅漢図展」(森美術館六本木ヒルズ森タワー53F)では、会場の入り口に50人位の人が並び入場券を求めていました。さすが村上隆です。お客の中には外国人、とくに中国人の姿が多く見られました。
2、五百羅漢図絵
まず大きな作品(5m×25m×4)に驚かされます。2作品づつ、ふたつの部屋に飾られています。4作品のタイトルは「玄武(げんぶ)」、「朱雀(すざく)」、「白虎(びゃっこ)」、「青龍(せいりゅう)」。いずれも中国の神話からとられた4つの方位を守る4神です。そして代表的な16羅漢をキーにして、500羅漢が描かれています。羅漢(らかん)とは、阿羅漢(あらかん)、仏教の修行の最高段階に達した人、聖人です。
1)作品のテーマ
東日本大震災のあと村上隆は考えました。災害の前にして、芸術は無力なのか。そしてこの作品を構想しました。震災後の12年に、援助の手を差し延べてくれたカタール国首都ドーハで、発表されました。
2)制作過程
まず疑問になるのは、どのようにして作られたかです。制作は埼玉にある村上隆のアトリエで行われました。
アトリエと言っても壮大な工場です。作業をしたのは全国の美大から集められた延べ200人を超える学生です。24時間体制、昼夜2交代制でした。一作品に3ヶ月が費やされました(美術館内のビデオより)。でも製作期間は1年ではありません。4作品が平行して描かれたと想像されます。
3)宗教と芸術
五百羅漢図絵は過去に、江戸時代の絵師、狩野一信や長沢芦雪が描いています。そこから触発され、村上は仏画の集大成を試みています。そして、釈迦の言説、羅漢の聖人伝説、神話と民間信仰・・・仏教にまつわるすべてを描こうと試みています。さらに村上は現代日本ポップカルチャーの文脈の中、アニメ、マンガのテイストで描いています。200人の画学生は村上のディレクションで仕事をしています。
3、ミケランジェロ
村上隆は16世紀ルネサンス、イタリア画家ミケランジェロをライバルにしています。出世作『マイ・ロンサム・カウボーイ』は、ミケランジェロの傑作『ダビデ像』の現代版です。そして『五百羅漢図絵』は、これまたミケランジェロの代表作『最後の審判』の仏教版です。
西洋の絵画制作の方程式のなかで日本の美術や東洋の美術を主張する。西洋の考え方にゴマをすって作品を作る。勝手の自分(日本)の考えを押し付けたら無視されるに決まっている。だから敢えて西洋に尻尾を振る。そして名声を得たらそれをブランドにしてふるさとに帰る。さらにはそれを権威にしてやりたい放題をやってみる。これが村上隆の戦略です。『マイ・ロンサム・カウボーイ』に16億の値がついたように、『五百羅漢図絵』も西洋はまた高値を付けるでしょう。
スーパーフラット』。これが村上隆が自らの美術表現に名づけたコンセプトです。スーパーフラットとは「超平面」、「みんな主義」、「超平等」。遠近法は嫌い、権威はいらない、階級社会の否定です。
まず、西洋絵画の伝統である遠近法を否定します。日本絵画はすべてを平面に羅列し描くからです。つぎに、芸術の権威を認めません。広告、生活用品、宣伝ビラ、アニメ、おもちゃ・・・ポップカルチャーもファインアート(芸術)も価値は同じです。さらに日本は階級社会ではありません。つまり村上隆の美術は西洋社会中心の今の世界を変える可能性を持っています。