『日本二千六百年史』(大川周明 毎日ワンズ)を読む。

THE TED TIMES 2023-37「大川周明②」 10/8 編集長 大沢達男

 

『日本二千六百年史』(大川周明 毎日ワンズ)を読む。

 

1、ダイナミック

大川周明は戦前の代表的な国家主義者として知られています。

ところが『米英東亜侵略史』(土曜社)を読んで、単純な「国家主義者」などというイメージは、ブッ飛びました。

大川周明は、戦前の日本を代表する、いやいまの時代においても日本を代表する歴史学者といえます。

さらに今回、『日本二千六百年史』読み、その思いを強くしました。

『物語日本史 上中下』(平泉澄 講談社学術文庫)にも驚きましが、大川周明は負けていません。

大川の優れた点は、国際的に、ダイナミックに、世界における日本の歴史が描かれていることです。

それは何か。中国の儒教、インドの仏教です。当たり前ですが、大川はそれを国家主義者ではなく、国際主義者として描いています。

科学的、論理的で説得力があります。つまり一流の歴史学者として、実証的に日本史を論述しています。

 

2、日本国

万世一系・・・いまの人は「万世一系」を軽々しく口にするが、深奥なる意義を理解していないと指摘します。

まず古代諸国で日本の建国思想に匹敵する国はない。秦の始皇帝は万世に至らんと豪語しましたが、わずか二世で亡国になりました。

対して日本の皇統万世一系です。日本民族は万世に独立し繁栄しています。日本民族福祉の根源はここにあります。

天皇とは「天神にして皇帝」の意味です。吾らの祖先は、天神にして皇帝たる君主を奉じて、この日本国を建設しました。

聖徳太子・・・17条の憲法があります。重要なのは12条です。「国に二君なし。民に両主なし」。

これを大川は、「当時の社会並びに政治組織を、根底より否認すせる画期的宣言である」、とします。

なぜならば、これまで日本の天皇は、最高族長として諸族の長を統治していたけれど、直接日本全体の国民を統治していたのではなかったからです。

大川は「大化の改新の思想的根拠」を明確にしています。

平安朝時代・・・大川は、『古今集』、『後撰集』、『新古今集』、『竹取物語』、『源氏物語』、『枕草子』などを繊細優麗、世界無比として評価します。

しかしそれは剛健堅実の精神を伴っていなかったから、浮華文弱に陥る、と指摘しました。

そして実際にその後の日本は堕落していきます。

「多くの男と交わるのは手弱女(たおやめ)の手柄、多くの女を従えるのは風雅男(みやびお)の誉れと誇る」浅ましい世態になっていきます。

大川は国風文化を絶賛していません。批判すべきものははっきりと否定しています。なんでもありの「国粋」主義者ではありません。

 

3、戦国時代

連座の掟・・・戦国時代は軍国主義の時代でした。諸侯と家臣の関係は情誼ではなく法律的になっていきます。厳重な制裁が科せられるようになります。「連座の掟」がうまれます。一人罪を犯せば、その親子一族に罪が及ぶ、連帯責任を負わせるものです。

「喧嘩両成敗」も戦国時代にできた法律です。

町村自治・・・租税の滞納、道路の破損、田地荒廃は一家乃至一村落の連帯責任でした。そして町村自治が盛んになります。

向三軒両隣・・・近所合壁(きんじょがっぺき=となり近所)だけの組合もできるようになります。

一方で、物資に供給、産業の発展の必要性から、鎖国はできず商人には特権を与え、関所の出入りを自由にさせました。

つまり戦国時代は、単なる混沌の時代ではなく、新しい文明の要素が成熟する時代でもありました。

日本の共同体が戦国時代から発生し、成熟していったという大川の指摘は極めて重大です。

 

4、国民

大川は国家主義者ですが、国粋主義者ではなく、国民主義者でした。権力だけでなく、その下の国民の生活を見ていました。

「日清日露の両役に疲弊せる平民を慰撫し、その福祉を増進するために、千々の心を砕くべき筈であった。妻子を飢え泣かせた者、出征のために家産を倒せる者、老親を後に残して屍を異境に晒せる者は、実に幾十万を算した」。

にもかかわらず、米騒動の際に「日本軍隊は外敵に向かって研ぎ来れる鋭き剣を同胞に向かって揮い、貴重なる弾丸を同胞に向かって放たねばならなかった」と、ときの政治家を批判しています。

大川周明の筆は鋭く権力を告発しています。

残念なのは、『日本二千六百年史』の満州事変で終わるエンディングには、『米英東亜侵略史』のような明解さがないこと、だけです。