「リベラル=教養、右翼=無教養」の公式を作ったのは、大江健三郎です。

THE TED TIMES 2023-16「大江健三郎」 4/22 編集長 大沢達男

 

「リベラル=教養、右翼=無教養」の公式を作ったのは、大江健三郎です。

 

1、右翼と左翼

最近の若者は「右」傾化している、内閣は軍備強化で急速に「右」旋回してきた、とリベラルな知識人は「右」を使い現状批判をします。

そして日本の歴史と伝統を大切にしたい、とあたりまえのことを言うと、リベラルはそうした者を国家主義的・国粋主義的とし、「右」翼と烙印を押し、無教養な馬鹿者扱いをします。

しかし最近では「リベラルは白人帝国主義アングロサクソンイデオロギーである」との研究が出てきて、「リベラル=教養、右翼=無教養」は逆転し、「リベラル=無教養、右翼=教養』になりつつあります。

3月3日に大江健三郎が88歳で亡くなられましたが、実はこの「リベラル=教養、右翼=無教養」の推進者が大江健三郎でした。

 

2、『セヴンティーン』(1961年)と『政治少年死す(「セヴンティーン」第二部)』(1962年)

この二つの小説は、「右」のサクラに誘われた「おれ」が、そのまま行動右翼になり、最後には政治家を暗殺し逮捕され自殺するという物語です。

第二部は浅沼稲次郎の暗殺事件を描いていて、右翼からも左翼からも批判を浴び(作家の生命の危険を配慮して)、『大江健三郎全小説3』だけでしか読めないものになっています。

不幸な大江作品として文学史に残っていますが、その右翼思想の薄っぺらさにガッカリします。

<かれら若い「右」は、おれが党に入る前に無責任に空想していた漫画的なそれとあまりにもそっくりだったから。それでいて死ぬほど真面目なところまでそっくりだった>(『性的人間』のなかの『セヴンティーン』 p.301 新潮社)。

小説を執筆するにあたって、どれだけ右翼の活動家を取材したかは知りませんが、まああきらかにバカにしています。

<おれは『古事記』を読み『明治天皇御製集』を読み(中略)『マインカンプ』を読んだ>(p.213)右翼は天皇制ファッシズム(マルクス主義の用語)の信奉者で、ナチスと同じにされます。

そして、<個人的なおれは死に、私心は死んだ。おれは私心なき天皇陛下の御子となった>(p.214)となります。

「おれ」は、『政治少年死す(「セヴンティーン」第二部)』(『大江健三郎全小説3』 講談社)で、加速します。

<「啓示」、おれは自分の力でこの毒にみちた平和を破壊することによって、天皇にいたるのだ(中略)日本を最も毒するやつを、おれの命を賭けて刺す、それがおれの「使命」だ!(中略)それは忠だ、「私心なき忠だ」>(p.70~71)。

さらに「おれ」は政治暗殺をしたあとに、<天皇が私の共犯です。私の背後関係の糸は天皇にだけつながっています>(p.91)と係官に供述します。

つまり大江の話題作で取り上げられる「右翼」は、無教養で、暴力主義者で、ファッシストで、狂信的な天皇主義者としか描かれていません。

大江の小説は書き改めなくてはなりません。

 

3、「シン・おれ」の宣言。

1)「おれは右翼だ。日本人には、万世一系の皇室があり、天皇がいらしゃる。皇室は日本の総本家だ。」

「ドイツの哲学者イマヌエル・カントは、世界平和の条件として、国々が共和制になることをあげている。世界の民族国家に共和制を押し付ける『共和制帝国主義」』では平和はこない。」

2)「おれは右翼だ。おれは神仏を祈る。四季の移り変わり、田植え、お盆、収穫は神とともにあり、生活の移り変わり、七五三、入学・進学、冠婚葬祭も神とともにある。」

「リベラルは日本人の宗教観をアニミズムと批判するが、キリスト教などの一神教は、他の神の存在を許していない。ここから国際紛争が起こっている」

3)「おれは右翼だ。日本人は自然を大切にする。山川草木悉皆成仏、全ての存在に神を感じ、生きとし生けるものすべてに仏を感じる。」

キリスト教徒の啓蒙思想は、暗闇に光を当てる、森を伐採する自然破壊の思想だ。ヨーロッパと北米大陸の森林の6~8割は、キリスト教徒によって失われている。」

4)「おれは右翼だ。日本人は共同体の中で生きてきた。和をもって尊し、和して同ぜす、一視同仁だ。政治や経済では、『滅私奉公』。売り手よし、買い手よし、世間よしの『三方よし』。仁義道徳でやってきた。」

「リベラルが言う自由とか平等は、ジョン・ロックから始まる。他国の侵略や独裁者により奴隷にされないための自由と平等。しかもその原点には自然法があり、自然法キリスト教の神によって与えられたものだ。」

5)「おれは右翼だ。しかしそもそも右翼、左翼は、18世紀のフランスの国民議会から生まれた言葉だ。議長席から見て左が王権打倒をめざす急進派、右に体制維持派が陣取ったから生まれた。」

「日本の国柄、国体を論じるのに、フランスゆずりの右翼左翼の議論はおかしい。それは十分知っている。自分でいうのはおかしいが『おれは国士』でありたい。」

7)「おれは右翼だ。左翼右翼の理論をさらに敷衍すれば、リベラル・左翼は、理性の力を信じ理性で理想の社会を建設できると考える。対して右翼は理性は不完全と考える。皇室伝統には人知を超えた英知があると考える。」

「おれは不可知論者だ。皇室伝統がいいか悪いかなんてわからない。しかし日本には万世一系の皇室があり、天皇がいらっしゃる。これが日本だ。」

5)「おれは右翼だ。日本人は、日本語を使い、日本文芸に親しむ。」「だれでも、和歌や俳句を作る。おれは、もののあわれ、をかし、わび、さび、いき、やぼ、日本人の情緒を大切にする。」

「はじめにロゴス(神の言葉=理性)ありきのキリスト教徒とは違う。日本人は言霊を信じる。言葉には、霊力があり、人を世を動かす力がある。」

***

大江健三郎は『セヴンティーン』のストーリーの中で、高校の国語の試験問題に、『源氏物語』の桐壺から物語の本質から離れた、見当違いの「訓詁学」的出題をしています(p.175)。

偉大なノーベル文学賞受賞者、大江健三郎は日本文学へのセンスが悪い。

大江健三郎に影響を受けたリベラルなあなたはそろそろ衣替えが必要です。

「リベラル=無教養、右翼=教養」の時代に変わりつつあります。