「2024年問題」を語るなら、フィールドワークをして、まず現場の声を聞くべきである。

THE TED TIMES 2023-39「2024年問題」 10/22 編集長 大沢達男

 

「2024年問題」を語るなら、フィールドワークをして、まず現場の声を聞くべきである。

 

1、2024年問題

「2024年問題」とは、労働時間短縮とワークライフバランスの問題です。日経の「『2024年問題』の行方」(日経9/22,25,26)を読んで驚きました。

この問題をご専門とする大学の先生たちは、労働時間の数字の議論ばかりをしていて、労働者の生活を全く問題にしていません。

左翼的な革命理論から言っているのではありません。労働者の生活を一顧だにせず議論を組み立てる、先生たちの学問の力に疑問を感じました。

2019年4月の改正労働基準法が施行され、時間外労働の上限規則が導入されました。それは、原則月45時間、年360時間、特別の事情があり労使が合意した場合にに限り年720時間の時間外労働が許されるというものです。

しかし建設業、自動車運転業務、医師は十分な猶予期間が必要との理由により、24年4月からの実施となった、これが「2024年問題」です。

 

2、医師の2024年問題

医師の問題に限定すれば、2024年には団塊の世代が全員75歳を超え、サービス需要が急増するタイミングになります。

日本の医療提供体制は、04年の臨床研修制度から変わります。それ以前は、新人医師はいきなり大学の医局に入り、滅私奉公的な初期研修を5~10年受けました。

50歳以上の多くの医師は、医療の王道は内科や外科、週80時間ほど病院にいる、請われれば過疎地でも勤務する、価値観を持っています。

対して新しい研修制度で育った04年以降の医師たちは、どの診療科が大変かを知っていて、滅私奉公的な研修を経験していない、ワークバランスを重視する価値観を持っています。

結果、外科系診療科への入局は極端な場合はゼロ、外科医不足が顕在化しています。

そこに働き方改革が追い討ちをかけ、第1に夜間救急患者を受け入れる病院が少なくなり、第2に手術提供能力が低下します。

では働き方改革を止めるべきか。しかし働き方改革をしないならば、救急医、外科医、産科医はさらに減ります。

つまり労働時間の短縮の問題だけでなく、ワークライフバランスが可能な生活を送れることを、保証することが必要になります。

以上は、「医師確保へ働き方改革急げ」(高橋泰国際医療福祉大学教授 日経9/26)から。まあ高橋先生はまともです。労働者しての医師の問題をよく考えています。

 

3、自動車運転と建設業界の2024年問題

黒田祥子早稲田大学教授は、「2024年問題」での自動車運転と建設業での問題は、値上げと賃上げ、であると結論しています(日経9/22)。

「過労に起因する医療・交通・建設事故が起きれば多くの人が犠牲になる。(中略)コストを負うのは日本国民だ。(中略)そのため値上げと賃上げは不可欠という発想の転換が必要だ」。

同じく首藤若菜立教大学教授は、労働時間を短縮して賃金単価を上昇させるには生産性の向上が必須になる、と結論しています(日経9/25)。

そして「日本の物流は長い間、ドライバーが柔軟に長時間働くことを前提としてきた」、これを変えなければとならない、と結んでいます。

「2024年問題」は、なんだか上品な賃金の問題で、お二人の問題提起からはワークライフバランスの問題が全く見えてきません。

道路、建設の公共事業の入札はまず価格ありき、予算を抑えた業者が落札します。つまり人件費を切り詰めた業者が勝ちになります。

現場には、外国人労働者が溢れています。鳶、職人、警備員・・・現場はいまだに「飯場」、「詰所」、「タコ部屋」の封建的な「昭和」です。

そこには、賃上げやワークライフバランスの、上品な問題はありません。

現場の監督が威張り腐る、パワーハラスメント、監督が気に入らなければ警備員は「帰れ!」と怒鳴り散らされます。サービス残業など当たり前。

人権無視が国民の血税を使った公共事業の現場で、正々堂々、当たり前のように行われています。

「2024年問題」を論ずるなら、お二人の先生に、職人の現場、ドライバーの現場の取材をおすすめします。