FTのジリアン・テットの「SMR」議論が面白い。これから彼女に注目します。

THE TED TIMES 2023-40「SMR」 10/30 編集長 大沢達男

 

FTのジリアン・テットの「SMR」議論が面白い。これから彼女に注目します。

 

1、サム・アルトマン

サム・アルトマン(1985~)を知っていますか。

チャットGPTで世界の注目を集めているオープンAI社のCEOです。セントルイスミズーリ生まれ、ユダヤ人系の生まれ、ヴェジタリアンで同性愛者であることを公表しています。スタフォード大学中退です。

そのサム・アルトマンが、次世代原発とされるSMR(Small Modular Reactor = 小型モジュラー原子炉)の開発に本格的に乗り出しています。

スキャンダラスなのは、サムが会長を務める新興企業オクロが、ウォール街の大物バンカーであるマイケル・クラインとともに立ち上げた特別買収目的会社SPACと、合併したことです。

SPACは、資産バブルを招いたとして、2年前から忌み嫌われています。そのSPACに「核」が加わることは、さらに一般市民の嫌悪感を強める可能性があるからです。

かといって、私たちはサム・アルトマンのオクロを無視することはできません。

米空軍はアラスカ州でオクロの原子炉を使う計画を発表しました。もし実現すれば、米国内で商用SMRが使われる初めての事例になります。

 

2、SMR

次世代原発SMRは投資家の注目をあつめています。

まず米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツが投資するテラパワーがあります。

つぎに米のニュースケール・パワーがあります。同社はSPACとの合併で上場し、ルーマニアでのSMRプラント建設計画のために様々な政府から2億7500万ドルの投資額を確保しています。

そして米ゼネラル・エレクトリック(GE)と日立製作所との合弁会社米GE日立ニュークリア・エナジーは、カナダでSMRプラントを建設しています。

さらの英国は「英国の電力の4分の1を50年までに国産原子力エネルギーから確保」すること表明し、SMR設計の国際コンペを立ち上げています。

背景には、

1)世界経済の成長、人工知能(AI)の新技術には大量の電力が必要で、電力需要は数年で急増する。

膨大な量の安くて安全なクリーンエネルギーに対する差し迫った需要が生まれる。

2)電力生産を化石燃料に依存すると地球温暖化は悪化する。蓄電で技術革新がなければ、風力や太陽光などの再生可能エネルギーでは需給ギャップを埋められない。

3)原子力技術は変わった。金と時間がかかる巨大発電所の時代は終わった。SMRは小さく、工場で生産された設計品を現場で組み立てる。費用と時間は格段に少ない。電力の需要地の近くに設置できる。

4)リサイクルされた核廃棄物を燃料として使うために廃棄物処理問題を軽減できる。

以上があります。

しかし、SMRには根強い反対派がいます。

1)環境保護派は原発が嫌い。原発を「環境負荷が小さい」から除外している。

2)米原子力規制委員会(NRC)の元委員長アリソン・マックスファーレンは、アルトマンのようなリバタリアン自由至上主義者)のテック・プロ(自信満々のテック業界)がニュークリア・プロになっている、という意見すらを嫌っている。

3)マックファーレンは、SMRは原子力規制当局から許認可を得ていない、商業的に利用可能なものが一つもない、SPACは誇大宣伝をしている、と主張している。

4)さらに、既存の原子力発電所は温暖化ガスの削減の大きな役割を果たしている、SMRの将来性は疑問だとしている。

以上は、「小型原子炉、電力の未来か」(ジリアン・テット 日経9/6)からの要約です。

つまりSMRは注目を浴びているが、その将来はバラ色ではないと、ジリアン・テットは書きます。

 

3、ジリアン・テット

しかし結論で、ジリアン・テットはSDR支持、を表明します。

理由として映画『オッペンハイマー』で見られるように米国政府は、原子力の技術革新をリードしてきたにも拘らず、第2次世界大戦後は革新について嘆かわしいほど動きが遅くリスクを嫌うようになってしまった、からです。

今ではSMRの予備実験を、ロシア、中国、アルゼンチンが、行っています。

ジリアンの文章は、極めて論理的、短い論考の中で賛成反対のディベートも行い、さらに自らの意見もはっきり主張しています。

ニュースがあり、事実の報道があり、提案があります。そしてなにより面白いのは、皮肉とユーモアがあることです。

いままで、FTのギデオン・ラックマンに注目してきました、これからはジリアン・テットもです。