エヴァンゲリオンが始まりました。

コンテンツ・ビジネス塾「平成男子図鑑」(2007-35)9/5塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

○「エヴァンゲリヲン新劇場版:序」の上映が始まりました。
イヤー驚きました。日本を代表する日本経済新聞が朝刊のコラムで、新作エヴァンゲリオンの劇場公開を取り上げたのです。美少女「綾波レイ」のフィギュアが、高値で取引されている。かつてバブル崩壊のとき、無言で毅然と敵と戦った彼女に、ビジネス戦士が共感しているというのです。
新世紀エヴァンゲリオン」は、95年にテレビ放送が開始された人気のアニメ番組です。今回はそのリメイク。日経の予感は的中、映画は超満員、座席指定の劇場では見れなかった人が続出。私たちは日曜日の渋谷で最終回にどうにか見ることができました。夜の回のためか観客は30~40代の大人中心。異様だったのはその大人たちが、シーンとアニメを見守っていたことです。
エヴァンゲリオンは、オタクの映画です。それはこの映画を作った庵野秀明監督自身が、自殺を企て、女性にもてず、あちこちを泊まり歩く、オタクだからです。「この12年間エヴァより新しいアニメはありませんでした」と庵野監督は言い切ります。つまり、「千と千尋の神隠し」も、「アップルシード」も、たいしたことないのです。なぜでしょう。どのアニメも若者の問題に答えていないからです。エヴァンゲリオンの主人公の「碇(いかり)シンジ」は、オタクの苦悩に答えようとしていたのです。
○「平成男子図鑑」
オタクは、幼児誘拐殺害事件の犯人として、はじめ社会の注目を集めますが、やがてオタクが生み出すカルチャーが「クールジャパン」として評価され、オタクは世界語になっていきます。
「平成男子図鑑」(深澤真紀 日経BP社)は、そのオタク世代の男性の生態を研究し分類することに挑戦したのです。まず図鑑は、男性を「おやじ」と「男子」に分類します。「男子」とは、団塊ジュニア(70年代生まれ)を中心にした20代半ば〜30代半ばの男性のことです。それ以外は「おやじ」です。
・「リスペクト男子」。特徴は、仲間を「くん付け」で呼び合うことです。「ヒガシくん」、「木村くん」・・・なぜそう呼ぶか、友だちをリスペクトしているからです。友だちを愛するだけでなく、彼らは地元も家族も愛しています。「なんでも批判し、けなし、いばる」おやじ世代とは対照的です。
・「オカン男子」。「絶対に自分を好きでいてくれる」「何があっても守ってくれる」「絶対に裏切らない究極の味方でいてくれる」。母親がいちばん大切なのです。オカン男子は自宅同棲します。オカンと暮らし、オカンと合わないような女子とはつき合いたくないのです。
・「チェック男子」。情報の洪水の中で育った彼らは、視聴、体験の代わりに、映画を、まんがを、新しい店を、レストランを、ケータイの新機種を、かわいい女の子を、とりあえずチェックするのです。彼らはコンテンツのクオリティや完全さにこだわるマニアではありません。
・「草食男子」。彼らはセックスにがっつかず淡々と女性と向き合います。「雑魚寝男子」「添い寝男子」もいます。ひと晩なにもなし。セックスが目的で女性とつき合っているのではありません。ところが「肉食女子」が増えています。こちらは「肉食おやじ」の餌食になっています。
・「しらふ男子」。宴会に参加しない。酒を飲まないのです。たばこ、ブラックコーヒー、ギャンブル、風俗に関心がありません。彼らは、水洗トイレ、消臭グッズで清潔に育ちました。お酒ではなく、散歩とおしゃべりで、コミュニケーションをとるのです。
「平成男子図鑑」は23タイプの男子に分類していますが、これはその代表的な5タイプの男子。どうですか。どのタイプにも、人間関係におびえるオタクの姿が浮かび上がってきていませんか。
○「生きる、って耐え難い」
エヴァより新しいアニメはこの12年間なかった。それは、母を幼少時に事故で失い父に捨てられ、対人恐怖症になってしまった「碇シンジ」の苦悩に、アニメも時代も答えてこなかったことに対する、庵野監督の抗議です。オウムは遠い思い出、平成男子のトップバッター・ホリエモンは消され、ネットカフェ難民が漂流しています。若者の心の「虚(うつ)ろ」は、消え失せたのでしょうか。映画のエンドタイトルに流れる主題歌が、乾いた心にしみてきます。宇多田ヒカル「Beautiful World」。♪もしも願いが一つだけ叶うなら、君の側で眠らせて♪宇多田ヒカルの絶望は、時代の問いに答えようとしています。「生きる、って耐え難い」、だから・・・。