シンゴジラ。オタク世代は、ちょっと問題です。

クリエーティブ・ビジネス塾42「シンゴジラ」(2016.9.26)塾長・大沢達男

シンゴジラ。オタク世代は、ちょっと問題です。」

1、キューティーハニー
いまから10年以上前ですが、映画『キューティーハニー』のプロモーションイベントが、「HMV」渋谷店(今はない)でありました(2014年)。主題歌を倖田来未がお色気たっぷりの歌うところまでは大サービスだったのですが、映画を作った監督が登場すると、場内は独特の雰囲気で暗くなり、どっちらけになりました。
180cmの長身、薄汚れている、無表情、笑わない、笑顔を作ることを知らない。ヘェー!オタクじない?
庵野秀明監督(1960年生まれ)は、大ヒットアニメ『新世紀エヴァンゲリヨン』の監督でもあります。幼い頃からアニメ、特撮を偏愛し、少女マンガにハマりました。1週間もお風呂に入らない、伝説を持つオタクです。オタクとは趣味の分野には強い関心を持つが、社会に対しては非常識、そして性的な世界に関心がない人。いまヒットしている映画『シンゴジラ』は、オタクの庵野秀明監督の作品です。
2、怪獣
ゴジラは日本が生んだ世界に誇る映画スターです。砧(きぬた)の東宝撮影所の壁には、『七人の侍』(黒澤明監督)の三船敏郎たちととも、巨大なゴジラが描かれています。初登場は1954年の『ゴジラ』( 監督:本田猪四郎 特撮技術:円谷英二 出演:宝田明 河内桃子)でした。ゴジラとは、ゴリラ+クジラ=ゴジラです。英語では『GODZILLA』(スペルにGOD=神が隠れている)です。
そもそもゴジラとは何なのか。原水爆実験により海底洞窟のすみかを奪われた古代生物の末裔です。ゴジラ誕生には、核兵器反対の願いこめられていました。ゴジラのライバルを紹介します。
1)アンギラス・・・背中にとげのある、暴龍。脳髄が身体の各所に分散していて敏捷な動きを誇ります。他種族に著しい憎悪を抱く性質があり、ゴジラに鋭い牙を向けます。『ゴジラの逆襲』(1955)に登場します。
2)キングコング・・・ソロモン群島ファロ島に棲息する巨大類人猿です。得意技は岩石投げ。米映画『キング・コング』(1933)で初登場。巨額の金で日米対決の『キングコング対ゴジラ』(1962)に登場しました。
3)モスラ・・・南海の孤島インファント島の守護神です。巨蛾(翼長135mの大きな蛾)のモスラ成虫はゴジラとの戦いで息絶え、巨卵から生まれた2匹の幼虫が、ゴジラに挑みます。『モスラ対ゴジラ』(1964)。
4)キングギドラ・・・X星に出現した宇宙超怪獣。大きな翼(150m)と三つの首と頭を持っています。地球の3大怪獣ゴジラモスララドンと戦います。『三大怪獣地球最大の決戦』(1964)で登場。
5)その他・・・大エビ怪獣・エビラ、ゴジラの息子・ミニラ、大グモ怪獣・クモンガ、両刀怪獣・カマキラズ、地底怪獣・バラゴン、公害怪獣・ヘドラ、未来怪獣・ガイガン、昆虫怪獣・メガロ、ロボット怪獣・メカゴジラ
3、シンゴジラ
シンゴジラ』は9月の初旬で興行収入60億円突破しました。超大ヒットです(『君の名は。』には負け)。
ヒットの理由の第1は、ゴジラ東日本大震災原発事故と同じように日本社会を襲った危機として、描かれていることです。子供、若者だけでなく、大人の共感を呼びました。
第2の理由は、優れた政治ドラマとして描かれていること。官邸での会議、根回し、徹夜の資料づくり、官僚と政治家、官邸の中をのぞき見るような面白さがあります(日経9/4)。
そして第3は、娯楽映画としてのゴジラです。東京の街の破壊です。『君の名は。』で描かれた美しい東京は破壊し尽くされます。ゲーム以上の面白さがあります。
ヒットは素晴らしい。でも映画を見終わった後、同じ理由の疑問に突き当たります。
まず第1。私たちはいつから、こんなに破壊が好きになってしまったのか。どんなに工夫を凝らした破壊のヴィジュアル作っても、事実は小説より奇なり、9.11の貿易センタービルに突っ込む旅客機以上のものを作ることはできない。そして破壊による犠牲者への想像力が欠けています(登場人物は不思議と安全)。
疑問の第2。政治ドラマはドキュメントは迫力があります。でもその結論は、平和と民主主義。みんなが力を合わせて一生懸命やればうまくいくという、安易な結論。実際のパニック、東日本大震災での官邸は、何もできませんでした。それは5年後の、いまの石巻気仙沼に行けばわかります。
そして第3。日本は危機を克服できていません。北朝鮮に拉致された日本人。IS(イスラム国)に殺害された日本人。東シナ海で、南シナ海で、中国軍の侵される日本の領土。何時、日本は報復するのか。
今日もゲームセンターで日本人は、破壊と戦闘のシュミレーションで戦争の腕を磨いています。そして平和と民主主義を叫びます。庵野秀明は偉大です。でもオタクを生んだ、個人の尊厳の戦後教育は空しい。