リーマン破綻は、4半世紀に一度の出来事。

 コンテンツ・ビジネス塾「リーマン・ブラザーズ」(2008-36) 9/30塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、米金融危機
新聞の見出しに驚かされるばかりで、私たちは右往左往しています。「50年以上か、100年に一度かの事態」が米国で起きているのです(日経 9/17)。今、直接、私たちの生活に関係ないとしても、巡り巡って影響を及ぼしてくるに違いありません。米国の金融危機に対してはっきりとした理解しておくことが必要です。
事態とは、米証券4位のリーマン・ブラザーズが破綻し、さらに証券第4位のメリルリンチが米国銀行大手のバンク・オブ・アメリカ救済合併されたことです。事態はまさに米国経済の心臓部を直撃しました。この米国発の津波は、やがて日本経済を襲ってくるに違いありません。
2、マネーゲーム
日経は9/18~9/24まで、「米金融危機出口を探る」というタイトルで、5人の論者の小論文を連続掲載しました。そのなかで極めて明解に議論を展開していたふたりの論文を軸に、金融危機に対する理解をします。まずは、池尾和人教授(慶応義塾大学)の所説です。
池尾教授は、これはひとつのビジネスモデルの終焉である、言い切ります。金融活動にはふたつのタイプがある。ひとつは、アービトラージ(裁定)型金融、もうひとつは、バリューバップ(価値創造支援)型金融。このうちのアービトラージ型金融の終わりだというのです。アービトラージとはなにか。arbitrageとは、「鞘取り(さやとり)売買」のことです。「安く買って、高く売る」ことで利益を上げる対タイプに金融活動です。金融資本市場が自由化されたばかりの80年代、米国の投資銀行アービトラージ(裁定)型金融で巨額の利益をあげます。さらに金融技術の革新によりさまざまなリスクも取引の対象にされるようになります。これの代表がデリバティブ(派生商品)です。
米国の投資銀行は、金融のフロンティア市場を開拓し、果敢に乗り込み、創業者利得を稼ぐようになります。この4半世紀、裁定型金融は、高収益をあげ続け、大成功してきました。しかし市場は健全に働きます。裁定型金融の成功ゆえに、金融市場は効率化され、「鞘取りの機会」は失われていくようになります。
しかし金融サービス産業には高収益プレッシャーがかかり続けます。「安く買う」ために売り手に適切な情報を与えない「詐欺的行為」をするようになり、「高く売る」ために金融商品のリスク特性隠ぺいし「買い手を欺く収奪的行為」をするようになる。こうして「不公正取引」が増殖していったのです。
サブプライム・ローン(信用力の低い個人向け住宅融資)では、「略奪的貸し付け」や「略奪的借り入れ」があったというのです。マネーゲームの終焉、ひとつのビジネスモデルの終焉です。信用市場危機をもたらした米国の金融サービス産業は、縮小し、その期待収益率も下方に修正されるのです。
池尾教授はさらに続けます。金融活動には本道ともいうべき、バリューアップ(価値創造支援)型がある。それは取引先の企業価値創造に貢献し、その一部を利益として受けとるものである。「金を貸すより知恵を貸す」。金融サービス業は知識集約型産業に転換すべきだと結びます。
3、ドル。
つぎは、行天豊雄国際通貨研究所理事長です。行天氏は、今回の危機が、1)住宅バブルとその崩壊、2)金融市場の危機、3)世界インフレ、4)ドル安と世界通貨不安、4つの要因の絡み合いの中から生まれていると指摘します。そして所論は、最終的には国際通貨としてのドルの問題にフォーカスされます。米国金融市場の脆弱(ぜいじゃく)さが露呈された、世界の指導国家として米国の威信にかげりが出ている、ドルは最も安全・安定した資産だったが将来に不安が出てきている。しかし、ドルに代わる力を持った「国際基軸通貨」は、現在も将来も存在しない、と行天氏は明言します。つまり、金融市場の自由と公正と競争を維持し、ドルの信用を回復させる経済的、政治的、イデオロギー的再生を成し遂げられるかという米国の課題は、日本と世界の課題でもあるというのです。その意味で、大統領選挙での政策綱領に注目すべきだと、その所論を結びます。
結論は、マネーゲームは終わる。けれどドルは残る。つまり今回の事態は、100年、50年ではなく、25年に一度の事態だったということになります。