コンテンツ・ビジネス塾「伊集院静」(2010-23) 6/23塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、家族の会話
あなたはご両親に話しかけるとき、ていねいな言葉を使いますか。「です」「ます」で、話していますか。また逆にご両親はどうですか。息子や娘のあなたに、丁寧語(ていねいご)を使って、お話しになりますか。ご両親同士はどうですか。母は父に敬語を使って話していますか。
夫「働いて貯金をし、ずっと残るものを買おうと思うのだが、何か考えはありますか」妻「ずっと残るものですか。あなたは何かあるのですか」夫「私は自転車が欲しいと思っています」妻「自転車ですか」(中略)夫「あなたは何かありますか」妻「ミシンを買っていただければ嬉しいです」(中略)
夫「ミシンですか。それはいい・・・」(『お父やんとオジさん』伊集院静 講談社 P.70~71)
いまから60年ほど前の、日本を舞台にした小説の、新婚夫婦の何とも清々しい会話の一部です。それから数年後の別のシーンでその妻は、母として我が子に、父が帰ってくることを「父さんが今日、かえってみえるわ」と言います。丁寧語と敬語の見事な会話の文章に感動します。作者の伊集院静は在日韓国人2世。その伊集院が正しい日本語と、日本人が失ったものを、教えてくれます。
2、朝鮮戦争(韓国では「韓国戦争」)
小説『お父やんとオジさん』は、第2次世界大戦終了後の在日韓国人のうち、日本に残った「お父やん」と韓国に帰った「オジさん」の運命の対比を通して家族離散の悲劇を、子供のボクの目から描いた自伝的な小説です。現在、「韓国哨戒艇爆沈事件」が起きています。韓国と北朝鮮の間には、今すぐに戦争が起きてもおかしくない状況です。いやこの表現は間違い。両国はいまも戦争状態にあります。戦争は60年間継続中。いまは休戦しているだけです。私たちはこの小説を読み、朝鮮半島の戦後史をもう一度復習する必要があります。
1)南北分断・・・敗戦で日韓併合は崩壊し、朝鮮半島は米ソにより北緯38度線で分断し占領されるようになります。1948年8月15日に大韓民国、9月9日に朝鮮民主主義人民共和国が成立します。
2)東西対立・・・1950年6月25日に、北の朝鮮人民軍約10万が38度線の突破し、戦争が始まります。韓国軍は敗走を続け、釜山まで追いつめられます。しかしアメリカ軍を中心にした国連軍の支援を受け、持ちこたえ反撃しやがて38度線を超え、逆に朝鮮人民軍を中朝国境にまで追いつめます。しかし北にも援軍が来ます。中国人民志願軍です。ソ連の武器援助と大量の中国軍の参戦で、朝鮮人民軍は再び38度線を超えソウルを支配するまでになります。こんどは韓国軍と国連軍ががんばり、ソウルを再度奪回します。その後戦況はこう着状態になり、1953年7月に板門店で休戦協定が結ばれます。つまり現在は停戦中。小説の「オジさん」は、はじめ北の共産主義に共感していますが、やがて韓国軍に接近するようになります。
3)家族離散・・・戦争での犠牲者は400~500万人、そのほとんどは民間人です。この戦争は占領したり占領されたりの繰り返しで「アコーディオン戦争」ともいわれました。両軍の度重なる爆撃により街は破壊されつくし、民間人は両軍によって徴兵されるだけでなく、敵軍のスパイ容疑にされ、虐殺されました。小説はその悲劇を描いています。
3、伊集院静
韓国から日本にやって来た伊集院静(西山忠来、チョ・チュンレ)の父は、戦後も日本に留まり海運業で成功します。息子は父の家業を継がずに、クリエーターの道を選びます。CM演出家として活躍、夏目雅子と結婚し、松田聖子などのコンサートの構成演出をし、近藤真彦の「愚か者」で日本レコード大賞、「受け月」で直木賞を受賞します。ほかに柴田錬三郎賞、吉川英治文学賞を受賞。競馬、競輪、野球、ゴルフを愛し、現在トヨタのCMに出演中の、オールマイティのハンサムです。
「お父やん」(伊集院の父)は、自分の苦労や日本人から受けた差別について話さない人で、共産主義でも民主主義でもなく大切なのは家族だと言う人で、「俺の家は代々任侠の血筋なんだ」という他人に恩義を受けた人でした。この父こそが、冒頭の新婚夫婦の清々しい会話をする「夫」です。伊集院には毎年成人式のサントリーの広告で会えます。今年の広告では成人する娘にこう書きました。「パパがママに出逢った日のように、まぶしくて、綺麗な日本語を話す女性になってくれよ」