ニューヨークのファッション戦争の主役には、中国人がいる。

コンテンツ・ビジネス塾「ニューヨーク」(2011-8) 3/2塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、SOHO(ソーホー)
ヨーロッパに伝わる古い弦楽器リュートが奏でる中近東風のメロディで、ライブは始まりました。バンドのリーダーはその曲を「トルコの思い出」をモチーフにしたものだと紹介しました。
場所はソーホー・ニューヨークのジャズクラブ「FAT CAT」。哀調を帯びたメロディは、やがてクラリネット、ソプラノサックス、テナーサックスのインプロビゼーション(即興演奏)によって展開され、これがジャズ!これがニューヨーク!と思わせる演奏に変わっていきます。
中近東のメロディをジャズで聴く、それもニューヨークで、となると特別の意味を持ってきます。まず、1920年代にスルタン(王)から権力を奪いトルコ共和国を設立した民族に英雄ケマル・アタチェルクをイメージします。そして、現在のチュニジア、エジプト、リビアの政変へとイメージは広がり、さらに、現在進行中のニューヨークの変化へと想像力はかき立てられていきます。
ジャズクラブあるソーホーは、アーティストの街です。しかしそのソーホーが危機に瀕しています。現在ソーホーでは、日本の「ユニクロ」、アメリカの「ホリスター」、イギリスの「トップマン」、アメリカの「アーバンアウトフィッターズ」などの、カジュアルブランドの戦争が行われています。出店競争で土地は値上がり、アーティストが生活できなくなり、ソーホーを逃げ出しています。
2、Hollister(ホリスター)
ソーホーでひときわ目立っているのが、ホリスターです。ホリスターは日本でも話題を呼んだアバクロ(アバクロンビー&フィッチ)のセカンドライン(姉妹ブランド)です。
銀座のアバクロ店と同じ、ソーホーのホリスター店でも、上半身ハダカの男と水着姿の女性が何やら楽しげに話しながら、まるで店内装飾のように立っています。
1)店内の巨大な映像ディスプレイ・・・店内に入るとだれもがアッと驚きます。店内の壁面の巨大なスペースがガラス窓のようになっていて、外には海が広がっています。波が押し寄せてきて、ビーチにはたくさんの人が海水浴に来ている。映画のワンシーンのような環境映像です。真冬のニューヨークでの海はさわやかでおしゃれです。撮影はカリフォルニア・ハンティントンビーチ。サーファーのメッカです。しっとりとして高精度の映像は、液晶映像なのか、プラズマなのか、ディスプレイ装置の仕掛けは分かりません。なにかの新しい試みがあります。
2)試着室・・・驚きに第2は、試着室。暗がりの中で、白の短パン、白のタンクトップのミドルティーンの女の子が待ち構えています。裸になり、ズボンを脱ぎ、試着を済まして試着室から出てくると、女の子の店員は、客の対応をするのではなく、地べたに座り、まるでビーチにでもいるかの足をパタパタさせて遊んでいるのです。エロい。犯罪が起きないのが不思議なほどです。
3)中国人・・・最後の驚きは顧客です。ホリスターも何かと問題を起こすアバクロと同じ。極端な白人主義、伝統主義、エリート主義です。このいわば「極右のブランド」にだれが群がっているのか?
ゲイでも、アメリカの学生でもない。日本人、韓国人そして増え続ける中国人です。
3、中国人
ソーホーのカジュアルファッション戦争の中心に、顧客としての中国人がいます。
白人のアメリカ、黒人のアメリカ、アジア人のアメリカがあるのではない。あるのはただひとつ「United States of America」。オバマ大統領はこのように演説をし勝利を収めました。自由で豊かな「中国人のアメリカ」が大きくなれば、それはそのままアメリカ合衆国の力になります。
現在、中国政府は「中国ジャスミン革命」(民主化革命)を恐れ、人権活動家の身柄を拘束し、ネット上の取り締まりを強化しています(日経3/1)。
トルコの古いメロディが、ジャズになり人々の胸に突き刺しました。そこにはサルタンを倒し、共和制を築いた民族の歴史があるからです。カジュアルファッションで自由の味を知った中国人を共産党政権は抑えることはできません。やがて中国の古いメロディもジャズになり、このソーホーで人々の胸を揺さぶるようになるでしょう。かつての強圧的な政権を過去の思い出として、懐かしむようになります。その日が近づいています。