朝日新聞はなぜ「日本の自殺」を取り上げたのでしょか?

クリエーティブ・ビジネス塾10「日本の自殺」(2012) 3/19塾長・大沢達男
1)1週間の出来事からホットな話題をとりあげました。2)新しい仕事のアイディが生まれます。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに作る力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、日本の自殺
37年前に月刊雑誌『文芸春秋』(1975.2)に書かれた論文「日本の自殺」が注目されています。
火をつけたのは朝日新聞。ことし(2012年)の1月10日の朝刊で主筆の若宮敬文が、「日本の自殺」が現実味を帯びてきた、とこの論文に言及したからです。朝日にとっては敵のような文芸春秋の論文を取り上げたことは事件でした。逆に文芸春秋は、仲のよくない朝日がこの論文を取り上げたことに、驚きました。そして文芸春秋は、2012年3月号に「日本の自殺」を再掲載し、事件はさらに大きくなりました。日本人の自殺ではありません。繁栄を誇る日本国が自殺するように内部崩壊して滅亡していく。世界地図から消えていくのです。
2、自殺のイデオロギー
ギリシャ、ローマをはじめとする歴史的な諸文明は、外部からの攻撃ではなく、内部からの社会崩壊から滅びています。文明の没落は社会の自殺でした。例えば、ローマは「パンとサーカス」。市民大衆は大土地所有者や政治家に群がって無料の「パン」を要求し与えられました。さらに市民大衆は、退屈しのぎのレジャー「サーカス」を要求しました。権利を主張し責任と義務を負うことを忘れた市民大衆は、精神的、道徳的退廃と衰弱を開始し、社会は崩壊へと向かいました。
現在の日本が、同じコースを歩んでいます。活力なき福祉国家に堕落し、エゴと悪平等主義の泥沼に沈み、生徒のご機嫌をとる教師によって欠陥青少年が大量に生まれているではありませんか。
1)「悪」平等主義
戦後民主教育は、差別反対、人間平等の名のもとに、画一主義と均質化を教育の世界にもたらしてきました。人間はすべて平等だからと、成績表に「オール3」や「オール5」をつける教師が出現しました。いまでいえばたくさんのシンデレラが登場する学芸会です。
2)批判と反対で提案能力がない
権利の主張は身勝手な利己主義になっています。義務と責任は拒絶されています。企業や国が困ることは歓迎されています。批判と反対ばかりで建設的な提案能力がありません。しかも事態の悪化を期待しています。原発反対では問題の解決になりません。エネルギー戦略をどうするか、リスクをどう取るかです。
3)大衆迎合とコストの無視
リーダーシップを否定します。エリート教育を差別教育として否定してきました。現代の政治社会の問題はアマチュアの井戸端会議で解決できません。「賃金を上げろ。物価を下げろ」「税金を減らせ、社会福祉を増やせ」コストを考えないおいしい提案で、国の借金は膨大に増えました。
3、絶望か希望か。
朝日の若宮論文は、日本人が福祉減税平等をもとめ、政治は迎合し赤字を増やしたことを取り上げますが、「自殺のイデオロギー」に言及しません。それは「日本の自殺」が、香山健一らの「保守のイデオロギー」によって書かれているから、認めたくないからです。
朝日が嫌う「保守のイデオロギー」とはなんでしょう。そんなものあるのでしょうか。保守とは風習伝統を守ること、conservativeです。マネージメントのドラッカーは保守とは、正義や理念の実現ではなく、問題解決の最適解を見つける方法だとしました。保守とイデオロギーはなじみません。保守の反対は革新、progressiveです。革新には自由、平等、平和、最小不幸、さまざまな実現すべき理念があります。「日本の自殺」では、平和憲法と民主主義の「革新」こそが、日本をダメにしてきたと指摘しています。
香山らは「自殺のイデオロギー」という言葉に皮肉の意味をこめています。資本主義から社会主義へ、イデオロギーの時代は終わった。にも関わらず、日本ではマルクス主義の亡霊が大手で歩いている。それもマルクス主義誕生の地、ヨーロッパから30~40年も遅れて。若宮は、「革新」や「朝日」が日本の自殺のイデオロギーである、ことに気がつかないのでしょうか。そんなばかなことはない。だとすれば、朝日は「イデオロギーの終焉」という革命を起こそうとしているのでしょうか。