神の子マー君は、神が知らない球を投げる。

クリエーティブ・ビジネス塾37「楽天」(2013.10.5)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、マー君
優勝を決めた田中投手(マー君)の最後の8球を見ましたか。9回裏、一死二、三塁のピンチ。西武の3番栗山を3球三振、4番浅村もカウント2-2から、空振り3振。投げた8球はすべて直球。自然と涙が出ました。野球を見た、プロならでは技を見た、と感動したからです。
テキサス・レンジャーズで277の三振を奪い、今年メジャーリーグの三振王になったダルビッシュ日本ハムに在籍時代に、田中投手との投げ合いを、東京ドームでしました。雨が降る中の外で1時間も並びびしょぬれになり、入場し観戦しました。それは日本でのしかも東京で見ることができる、ダルビッシュと田中の最後の対決でした。期待していました。でもつまらなかった。ふたりとも落ちる球、変化球で勝負していたからです。
どんな変化球もいつかは打たれる。変化球は原理的にだれでも投げることができます。しかし直球を投げることはできません。直球という変化球は、手元で浮き上がる(ような)、重力に逆らう「神が知らない球」です。野球でいちばん感動するのはこの直球を見たときです。
高校時代に投げるたびに完全試合ノーヒットノーランが期待された江川卓の直球、メジャーで活躍した野茂英雄もフォークではなく直球、でした。三振王ダルビッシュが打たれるのは直球が悪いから、だから魅力に欠ける。人間の次元に留まっています。
田中投手の最後の8球は素晴らしかった。気合いが入っていたとか、魂の投球とか、お涙ちょうだいの物語ではない。異形のプロとしての技、私たちが努力してもできない不可能の投球を、見せてくれた。「神の子」マー君が、「神が知らない球」を投げたからです。
2、プロ野球経営
東北楽天ゴールデンイーグルスは、2004年に設立、球団創設9年目にして初優勝しました。球団を経営している楽天株式会社は、三木谷浩史(1965.3.11~)によって1997年に設立されました。楽天市場は日本で最大の電子商店街です。会員数4,000万人、出店25,000店、年間売上5,300億円(2008年)。トラベル、銀行、証券、クレジットそしてプロ野球、事業は多角化。社長の三木谷は日本富豪ランキング5位に輝き(フォーブス誌2011年)、日本経済を牽引する若き経営者です。楽天優勝の原動力は、楽天の経営力です。
楽天は、年間30~40億円の赤字はあたり前のプロ野球経営で、初年度から1億6000万円の黒字を出しました。まずKスタ宮城を全面改修して県に寄付、球場の「運営権」を手にしました。広告看板のスポンサーを獲得、「協賛デー」などのイベントを企画、球場の飲食店をバラエティー豊かにしました。そして、球場の概念を変えました。「ボールパーク」構想です。球場周辺に子ども向けのトレインを走らせ、砂浜ビーチ、プールを作り、「世界のビール祭り」、グランドでの「お泊まり会」を開きました。さらに驚きは、チケットのフレックスプライス(試合によって料金が変わる)、21種類の座席の種類、ゴミ収集のスポンサーの獲得。消費者目線とスポンサー目線でサービスメニューの多様化をしました(日経9/28~9/30)。楽天球団の勝利の前に、球団経営の勝利がありました。
三木谷の成功の始まりは、ヴァーチャルショッピングモール(仮想商店街)です。神は、人間と現実世界を創造した。しかし仮想空間は知らない。つまり三木谷は、神が知らない世界での成功者です。三木谷は、運命の日3月11日に生まれ、被災地東北を救いました。
3、楽天
楽天とは、「optimism=楽観主義」のこと。世界および人生の意義価値に関して、悪や反価値の存在を認めながらも、現実をあり得べき最良の世界・人生と見なす立場です(広辞苑)。反対は悲観主義(pessimism)、厭世主義です。You are happy-go-lucky.(君は本当に気楽なやつだな)。
楽天イーグルスのお客さんは、たとえ負けていても試合が終わるまで帰りません。いつか逆転が起きる。楽天主義で試合を見ているからです。事実、楽天は奇跡を起こすチームです。逆転はリーグ最多の34、負けていてもどうにかなるさ。「神が知らないビジネス」で成功したオーナーと、「神が知らない球」を投げるエースの力をたよりに、楽天は、「楽天」の現実主義で、優勝しました。