野球のデータ分析革命、「セイバーメトリクス」とは、何か。

クリエーティブ・ビジネス塾26「セイバーメトリクス」(2018.6.25)塾長・大沢達男

野球のデータ分析革命、「セイバーメトリクス」とは、何か。

1、マネーボール
映画『マネーボール』(ベネット・ミラー監督 2011年)を覚えていますか。メジャーリーグの弱小球団が、野球のデータ分析による球団改革で優勝をもぎ取る、というアメリカンドリームの話です。
データ分析とは「マネーボール理論」です。復讐しておきます。
1)打率で打者を評価しない・・・問題は出塁率。安打、四球、そして長打力。打率には四球と長打力が表現されていない。2)被安打で投手の能力は計れない・・・投手の真の能力は、奪三振、与四球と被本塁打が少なさで計れる。3)盗塁、犠打はムダな戦略・・・アウトを増やす可能性がある攻撃は賢明ではない。
いずれもメジャーリーグ100年の常識をくつがえすもの。しかも『マネーボール』は、フィクションではない。経営危機にあったオークランドアスレティックスを優勝させ、経営再建を成功させた実話でした。
2、セイバーメトリクス
データの客観的分析で選手と戦略を評価する方法論を「セイバーメトリクス」といいます。造語です。
SABR(Society for American Baseball Research=米野球学会)+Metrics(測定)=Sabrmetrics。
(以下は「やさしい経済学 スポーツ界に広がるデータ革命」酒折文武 日経5/31~6/7を参考)。
1)OPS(On plus slugging=強打を加えた)・・・打者を評価する新しい指標。出塁率長打率を加えた値で、選手の打撃面での貢献を示す指標。チームOPSは、総得点数との相関が強いことが証明されている。
2)WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched=投球回あたり与四球・被安打数合計)・・・投球回あたり何人の走者を出したか表す数値。与四球と被安打数を足した数を投球回で割って求められる。
先発投手で、1.0未満ならエース、1.2未満ならエース級、1.4を上回ると平均以下で問題。
3)PITCH f/x・・・投手の投球速度、投球軌道を追跡するスピード測定システム。2006年MLBポストシーズンから導入され全球団の本拠地球場に設置されている。投手のリリースポイント、捕手の捕球位置、ボールの初速と終速、回転数、フォーシーム、ツーシーム、スライダーの球種を判定する。ほかに打球データの「HIT f/x」、守備データの「FIELD f/x」、捕手のグローブの軌跡データの「CATCH f/x」もある。
4)スタットキャスト(Statcast)・・・軍事技術の追尾レーダーの技術を応用し、ドップラーレーダーと光学高精細カメラと使用してボールを計測し分析する。2015年から、MLBの本拠地球場に導入されている。
ちなみに「打者」大谷翔平OPSは、9割9分1厘。規定打数に達していないためにランキングに入っていませんが、6位のアーロン・ジャッジ(ヤンキース)を上回っています(5/25現在)。そして「投手」大谷翔平のWHIPは驚異的なO.46、メジャー1位(4/12現在)です。
3、サムライジャパン
スポーツにおけるデータ革命は、野球だけではありません。バスケット、アメリカンフットボール、アイスホッケー、バレーボール、サッカーでも進んでいます。
バスケットでは、カメラによるトラッキングシステムで、選手とボールの動きの軌跡を詳細に測定し、戦略策定に利用しています。バレーボールでは監督が、試合中のデータを収集分析した結果を、タブレット端末で受信し即座に戦術決定にいかしています。さらに、アメリカンフットボールではショルダーパッドにチップを埋め込み全選手のリアルタイムの位置と動きを取得しています。選手はGPS(全地球測位システム)を内蔵したウエラブルセンサーで、動きと位置だけでなく、心拍数も測定されています。
さて問題はサッカー、現在行われているワールドカップサムライジャパンです。
2014年のドイツ優勝は、データ分析("Match Insight"というシステム)という12番目の選手がもたらした、といわれました。日本のJリーグでも15年からスタジアムに設置されたカメラでJリーグの全試合のトラッキング・データが収集されています。選手の走行距離、スプリント回数が算出され公開されているのはこのシステムのおかげです。
しかし、サッカーのデータ分析はむずかしい。まず得点が非常に少ない。ほとんどのプレーが得点に直結していない。評価指標が作成できません。つぎにトラッキングデータの活用をしにくい。同時に移動する選手の数が格段に多い。プレーが途切れにくいからです。
サムライジャパンは、ワールドカップ直前の監督交代でドタバタしました。しかしこれから重要になるのは、チームの頭脳です。データ分析に優れた「スポーツアナリスト」です。